夜が街を飲み込む夜9時59分。それでもなお

摩天楼の街並みは自らを目立たせるかの如く

煌煌と輝いている。まるで誰かが来るのを祝

福するかのように。しかし今宵私の前に姿を

現すのは、とても祝福すべき相手ではない。


夜10時00分。

街の中央塔が合図を決め込むかのように、定

刻の鐘を鳴らす。

ボーン、ボーン。3度ほどその音を響かせ

る。

現れます、あの人が。

怪盗エリーチカ。

ーーーー
昨日

ことり「予告状ですか?」

にこ「ええ。『明日の夜10時、××美術館の最高級品である名画をいただきに参上します。怪盗エリーチカ』だって」

にこ「馬鹿げてるわね」

ことり「怪盗エリーチカ⁉︎」

花陽「怪盗エリーチカって言えば、あの超有名な世界的怪盗じゃないですか!ついにうちの地区にも来たんですね!」ワクワク

にこ「何でワクワクしてんのよ」

希「今までに盗んだお宝は数知れず…推定被害金額は150億を超えるとされるかなりの大物」

希「いよいよこのオトノキシティにもくるんやね」

にこ「何であんた達ちょっと嬉しそうなのよ!これはチャンスよ!」

にこ「怪盗エリーチカをここで捕まえればこれはもう大ニュース!昇進どころかあらゆるTV番組に引っ張りだこになるわ!」

にこ「そうすればにこの美貌は世界中に知れ渡ることになって…一躍人気者に…」

ことり「それは大変!いち早く対策を立てないと逃げられちゃうよ」

花陽「そうですね、相手は私達の手に余るような熟練の怪盗…一筋縄じゃいきませんね」

希「TVに出たいとか言ってる人は置いといて、ウチらで態勢を整えようか」

にこ「ちょっとぉ!少しはのりなさいよ!」

ーーー



そんな訳で、美術館の周りは当然警備態勢

に。敷地内にはパトカーというパトカーが沢

山敷き詰められ、警官の皆さんも大勢警備に

あたっています。猫一匹であろうと通しませ

ん。

館内は当然閉鎖されていますが、名画の警備

ということで特別ににこちゃん、花陽ちゃ

ん、そして私こと、ことりの3人のみ部屋に

入る事を許されています(希ちゃんは連絡の

為に外で待機)。勿論、怪盗エリーチカから名

画を守る為なのですが…。


にこ「こないわね、」

花陽「そうですね…」

ことり「……」

そうです、予告時間を1分ほど過ぎているのに

も関わらず彼女は姿を現しません。

花陽「もしかして、時間間違えちゃったのかな?」

にこ「時間間違える怪盗がどこにいるのよ」

にこ「相手は、あの怪盗エリーチカよ。どんな仕掛けでここを突破するか分からないわ。」

花陽「確かにそうですね」

にこ「用心しなさいよ」

そう、にこちゃんの言う通り、相手はあの怪盗エリーチカ。

彼女はその素顔はおろか、どんな証拠も残さずに目的の品を盗んでいきます。

その犯行にかかる時間は、最短でも20秒ほどだったとか。敵ながら感服します。


…って、今は任務に集中しなきゃ。いつ出てくるか、分からないもんね。

3人「……」

館内は静寂に包まれたまま。



すると、8時を2分ほど過ぎた頃。


バッ!!

ことり「照明が全部落ちたよ!」

花陽「怪盗が登場するお決まりのやつですね!ワクワクします!」

にこ「あんた達気をつけなさいよ!それと花陽、本心漏らしてるわよ!」

館内は暗闇に染まりますが、窓から仄かに射

す月の光でほんの少しだけ視界を確保できま

す。

しかしその安心も束の間の事。


バリン!!

ことり「皆、窓の方をみて!」

私達が守る名画のちょうど正面に当たる大

型の窓が壊され、館内に進入する者が一人。

にこ「いよいよお出ましってわけね…」


そこには、月明かりに照らされ黒の衣装に身

を包み、優雅にその髪を風に靡かせる怪盗エ

リーチカがいた。

花陽「来ましたね」

当然仮面でその顔は隠されている。故に、誰

も彼女の素顔を知らない。

しかし、仮面の上からでもその美貌は見てと

れる。ブロンズの髪は色鮮やかに輝き、その

豊満な胸は自らを主張するかのように揺れ

る。

ことり「きれい…」

ことりは思わす彼女の姿に見入っていた。

にこ「ちょっと!ことり、しっかりしなさい!」

ことり「…!ごめん!」

そうしてる間にも、彼女は一歩ずつ近づいて

くる。徐々にその距離を詰め、しかし確実に

私達の間合いまで入ってくる。

気づけば彼女は、私の手が届きそうな所まで

来ていた。


絵里「ふふ。可愛い刑事さんが3人」

絵里「楽しませてくれるかしら?」

言うが早いか、彼女は何かしらの固形物を手

から地面に放つ。その瞬間視界は光という光

に包まれ、あっという間に自由を奪われる。


花陽「ピャッ!」

にこ「これは…閃光弾ね!」

絵里「ふふ、捕まえられるかしらね」

にこ「あんた達落ち着いて!絶対に捕まえるのよ!」


目の前が光なのか闇なのか混沌なのかも分か

らないまま、私は無我夢中に辺りを手で探

る。そこになにが有るのかも分からないま

ま。

ガシッ!

すると手探りのまま私の手は確実に何かを捉

えた。

これは…手?

絵里「あらあら」

絵里「捕まえられちゃったわね♪」

ことり「…//」

にこ「捕まえたの?ことり、お手柄よ!」

花陽「ことりちゃん、絶対に離しちゃだめですよ!」

ことり「う、うん!」

絵里「でも、残念」

絵里「あなたが繋いでるのは、お宝を持ってる方とは反対の手。惜しかったわね」

ことり「でも、こうしてあなたを逃さないようにする事は出来ます」ギュッ

絵里「大胆な刑事さん。でも、ここで捕まえられるわけにはいかないの。ごめんね?」

絵里「おっと…」ポロ

ことり「……!」

そして彼女の手が私の頬に当たる。いや、そ

れとも彼女が意図して触ったのかもしれな

い。

絵里「いい子ね、早く離しなさい?」ナデナデ

ことり「ふわぁ…」

彼女の手が私の頬を撫でる。とっても優しく、まるで恋人に触れるかのように。

その柔らかさに私は、気を緩めてしまいます。

ことり「あっ…手が…」

気づいた時には手はもう離れていて、彼女の姿はもうそこにはありません。

にこ「しまった!逃げられたわ!」

絵里「じゃあね、"Have a good night''(素敵な夜を!)」

そう言って、彼女は進入口を同じように出て

行き夜空へ羽ばたく。速やかに用事を終えま

した、とでもいうかのように。

しかし実際に、予告通り名画は完璧とも言え

る防御態勢を突破され見事にその姿を消して

いた。

そして、すっかり元の暗さが戻った館内に

は、私達3人だけが取り残されていた。

にこ「やられたわね…」

花陽「ええ、怪盗エリーチカ、見事な手法でした」

にこ「しかし、あと1歩だったのに。ことり、何で手を離しちゃったの?」

ことり「えっ…それは//」

ことり「ことりにもわかんないよ」

にこ「ことり、あんた顔赤くない?熱でもあるの?」

ことり「…!そ、そんなはずないよ。気のせいじゃないかな」

そう、その日。

怪盗エリーチカは、私の心までをも盗んでい

ったのです。


彼女は何者なのでしょうか?


【続く】



以上です。中編に続きます。
中編は約1週間後投稿予定です。
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