〜野獣邸〜

二週間前に、野獣にあの男と引き合わされた時からというもの。俺はずっと、俺の中のもう一つの意識と戦いを続けていた。

MUR「ぐっ...おおっお、ゾッ! いい...レ...ぐうぅぅ!!」

MUR「いいゾ〜こ、れっ、あああああ何も良くない!何一つ良くなんて、なぁいっ!消えろ、消えろ消えろ消えろぉ!!」

MUR「あの野郎......あの野郎!野獣の野郎! よくも俺を、ゾ、騙しやがったなぁぁぁぁぁ!!」

〜二週間前の回想〜 ”ガン掘リア宮殿前”

暗い夜道を長いこと歩かされると、野獣はある建築物の前で足を止めた。建物全体は一般的なコンクリートだが、外観を丸い円柱の柱が装飾し、宮殿を思わせるような珍妙な造りになっている。

野獣「ここが俺たちの本拠地、ガン掘リア宮殿だ。お前に力を与えてくれる人や、他の仲間も集まっている」

MUR「俺以外にも声をかけていたのか」

野獣「俺の計画は、とても俺一人じゃ回らないからな。中にはお前にとって馴染み深い奴も既に来ている」

MUR(ホモビで共演したあいつのことを言っているのだろうか。出来れば、顔を合わせたくはないな)

野獣と共に建物の中に入る。夜にも関わらず、建物内の明かりは一切点けられていないため、俺は廃墟を歩いているような気分に陥った。そもそも電気が通っていないのだろうか。
階段を登ってしばらく歩くと、野獣は会議室と看板に書かれた扉の前で止まった。

野獣「着いたぞ。彼に会う前に忠告しておくが、お前が持つホモビへの嫌悪感はあまり表情に出すな。戦いが終わるまで、俺たちは協力するべき仲間だということを忘れるなよ」

MUR「......ああ、分かったよ」

野獣「じゃあ行くぞ」ガチャッ キィィィィ

扉を開くと、そこそこ広い部屋が現れた。相変わらず電気はなく暗かったが、日当たりの良い場所なのだろうか。月の光が室内を照らし、ある程度の視界は保持出来ていた。顔は見えないが、あちこちに人の気配がある。

野獣「はじめさん。MURを連れてきました」

??「早かったですね。流石です、田所さん」

扉を開いたすぐ目の前に座っていた男が、立ち上がって近づいてきた。公園のベンチに野獣が現れた時のように、その男もフードを被っていて、顔は分からない。

野獣「はじめさん程じゃありません。ほらMUR、この人がお前に力をくれる人だ。挨拶しろ」

MUR「ど、どうも」

はじめ「来てくれて嬉しいです。僕は『始まりのホモ』と呼ばれる、田所さんの仲間です。まぁここの最古参であり、NO2みたいなものかも知れません。気軽にはじめ、とでも呼んで下さい」

野獣「NO2だなんて謙遜を。はじめさんがいなければ仲間も増やせませんし、はじめさんのおかげでここは成り立っているんですよ」

はじめ「だがリーダーは田所さん、あなただ。こういうのはきっちり線引きして、明示する必要があるんですよ。みんなあなたの意志に惹かれて、ここに来たんだ。私は、あなたを支えるサポート役でいいんです」

野獣「しかし」

KMR「MURさん! お久しぶりです!」

野獣とはじめ、という人物の会話についていけずに突っ立っていると、随分嬉しそうな声が俺を呼び止めた。

KMR「いやぁ何年ぶりですかね!また会えるなんて嬉しいなぁ」

話しかけてきた顔には見覚えがあった。人懐っこい笑顔に、自身の無さそうな瞳が特徴的な男だ。ホモビの撮影中に出会った中で、俺が好印象を持った唯一の男でもある。あくまで俺のケツを掘ったことがあるという、耐え難き事実に目を瞑ることが出来れば、の話だが。

MUR「ああ、これからよろしくな」

KMR「あっ、よろしくと言っても、もう体洗ったりとかは絶対にしませんからねっ」

MUR「え? あ、ああ。......もう撮影があるわけじゃないし、しないだろそりゃ」

KMR「撮影? 撮影って、なんですかそれ、また変なこと言って僕を騙す気ですか?」

MUR「いや何って、撮っただろうビデオを。あの時」

KMR「えっ?あの時のプレイ、ビデオに撮ってたんですか!? どうやって!」

MUR(なんだこいつ。十何年会わないうちに頭がおかしくなったのか? 話が全く噛み合わない上に、撮影のことも覚えていないだと?)

野獣「安心しろよ木村、先輩のただのジョークだよジョーク」

KMR「そうなんですか? あービックリしたなーもう。やめてくれよ...」

野獣「挨拶はそんぐらいでいいだろ。俺と先輩はちょっと話があるから、向こうで体育座りしてろ」

KMR「うん......」

MUR(野獣が俺を、『先輩』だと? ちょっと待て、なんだこれ。KMRのさっきの違和感といい、口振りといいこれじゃあまるで......)

??「MURさん、ご無沙汰しております。悶絶少年専属調教師のタクヤと申します」

??「MUR様、お久しぶりです。緊縛師の平野源五郎です・・・」

??「 ぼ く ひ で 」

MUR(こいつら、まるで『ホモビのキャラそのもの』じゃないか......!)

はじめ「さて、挨拶も済んだようですし、そろそろ始めますか」

野獣「そうですね。よろしく頼みます」

MUR「ひっ...!」

MUR「ま、待て! やっぱりやめた! 俺は帰る帰る帰りたいんだ!家に帰らせてくれよ妻と娘が待ってるんだ!」

野獣「......覚悟はした、と言っていなかったか?」

MUR「ふざけるな! あ、あんな......『あんな風』になるなんて俺は聞いてないぞ!」

野獣「聞かれなかったし、言わなかったからな。......いずれにしろ、もう遅い」

はじめ「さぁ、こっちを見て。こっちに来るんだ。大丈夫、大丈夫。僕の右手で、君は新しい力に目覚めるんだよ...。それはとぉっても、とっても素晴らしいことなんだから」

MUR「やめろよせ。やめてくれ来るな離せ!嫌だやめろ!!やめてくれ!やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

フードの男が俺の顔の前に手をかざすと、眩い白い光が視界を包んだ。光が眩しくて、眼を閉じたいのに自分じゃ動かせなくて。次第に酷い目眩がしてきた。頭痛もあったと思うがよく覚えていない。
目から頭に伝わった異常な感覚が、やがて身体へも移り始めた頃。俺の意識はそこでプツリと途絶えた。