彡(゚)(゚)「あの女のジャンプに気を取られて、アホ共が上を向いとるぞ! 今がチャンスや!」

(´・ω・`)「うん!青い方は僕に任せてよ!」

車と塀の間で立ち往生しとる2人に向かって、ワイらは走った。接近したワイに気づいた赤が、ハッとこちらに顔を向けるが

彡(゚)(゚)「遅ぇわ、死に晒せボケェ!」

赤の服を両手で掴み、力まかせに後方に投げ飛ばす。柔道の綺麗な投げには程遠いが、勢いのあるナイススイングで地面に叩きつけられたと思う。

赤「ぐへぇ」

数回、小さくバウンドする赤の体。逝ったか!?と思ったが、赤はすぐに起き上がり、

赤「くそっ、やりやがったな!」

彡(゚)(゚)「今のでノーダメージなんかい」

全く堪えた様子もなく、平然と立ち上がった。結構、手応えあったんやけどな。これはもう勝てんかも知れんな。

彡(゚)(゚)「だが、これで広い場所で戦えるで」

赤と青がいた、車と塀の間の狭い道。そんな特殊な場所で喧嘩するイメトレなんて、ワイは一度もしたことがない。だが今の投げ飛ばしで、赤とワイは障害物の無いただの道路に立っている。これで少しは、イメトレ通りに戦えるはずや。
そう思った時、後ろで異変が起きた。

青「ポカポカ殴るだけでよぉ、ウザったいんだよチビ助野郎ぉ!!」

(´・ω・`)「ぐへぇあ!」

振り向くと、原住民が青に蹴り飛ばされていた。青が放った膝蹴りが、背丈が人の腰ほどもない原住民の頭部を捉え、原住民は塀に叩きつけられた。

彡(゚)(゚)「お、おい!原住民ちゃん大丈夫か!?」

赤「おいおい先に俺と戦えよ、そのための拳でしょ?」

慌てて駆け寄ろうとするも、背後から赤に肩を掴まれる。

彡(゚)(゚)「うるっせぇこのダボがぁ!」

頭に血が上ったワイは、振り向きざまに赤を殴りつけた。

赤「ボリョッ!?」

右拳が赤の頭に当たると、赤はそのまま膝から崩れ落ちた。投げ飛ばしはノーダメージだったのに、何故ワイの拳一発には大ダメージを受けるのか不思議だったが、気にしている余裕は無かった。膝をついた赤の顔を横あいから蹴り飛ばして、ワイは青と原住民の元へ走る。

青「おい大丈夫か振男! てめぇ、よくも振男を!」

彡(゚)(゚)「知るかボケ! お前らが始めた喧嘩やろが!」

高く上げた両拳を強く握りあわせ、青の脳天めがけて思い切り振り下ろす。青は避ける動作もロクにせぬまま、それをモロに喰らった。

青「ガネッ!」

頭を打たれ、体から力が抜けた青がうつ伏せに倒れる。その青の頭部を思い切り踏みつけた後、ワイは原住民に声をかけた。

彡(゚)(゚)「おい原住民、しっかりせえや!」

(´・ω・`)「ぼ、僕は大丈夫だよ。それよりう、宇野さんを」

彡(゚)(゚)「あんな女なんて今どうでもええわ! お前が大丈夫なんか聞いとるんや!」

(´・ω・`)「だから...大丈夫だって言ってるじゃない。いつも喰らってるおにいちゃんのキックの方が、な、何倍も痛いよ」

彡(゚)(゚)「......そか。そんな減らず口叩けるなら、大丈夫...なんやな。」

車を挟んだ向こう側では、ワイに背を向けて黒が両手を上げ、その背の向こうで宇野が拳銃を手に構えていた。
顔を後ろに逸らし、仲間の青が倒れているのを横目に捉えた黒は、

黒「金田...金田! 暴力もヤられたのか!? チクショウ、てめえよくも2人を!!」

腕を下ろしてこちらに振り向いた。グラサンで隠れて目は見えないが、黒の皺で歪んだ顔は、憤怒の感情を露わにしていた。

宇野「ブサイク、早くこっちに! もう諸々限界です私!」

今まで宇野が銃で脅し、動きを抑えていたのだろう。止まらないと撃つぞ、と宇野が叫んだが、黒は気にも止めずにワイめがけて走り出す。

彡(゚)(゚)「ちょっと待ってろや。パパッとやって、終わりにして、とっととウチに帰るぞ」

(´・ω・`)「うん...ファイトだよ、おにいちゃん」

助走をつけて大きく右拳を振りかぶる黒に合わせて、ワイも三歩助走をつけて、同じく大きく振りかぶる。

彡(゚)(゚)(上等や。仲間やられてムカついてるのが、お前だけやと思うなよ!)


〜宇野視点〜
私は、ホラー映画というジャンルが大嫌いだ。決して幽霊が怖いからではない。なんでもありの化け物側が、一方的に人間をイジメ殺すというストーリーラインに、なんの面白さも見出せなかったからだ。
しかも後味が悪い方が怖いという理屈からか、私が観たホラー映画の結末は、全てがBADエンドだった。理不尽に強く設定された敵が、主人公達を好き放題いたぶって、ロクな解決もされずに物語が終わる。そんな作品を数本視聴した時点で、私は二度とホラー映画なんか観ないと心に誓った。
物語のテーマがバトルであれ、恋愛であれ、人生であれ、そこに勝ち負けの勝負があるから面白いのだ。大きな困難があってもいいし、その結果が敗北であっても構わない。ただ、こうすれば勝てたかも知れないという勝ちの目だけは、必ずどこかに残すべきだ。仮にもそれが、物語を名乗る代物ならば。

宇野「......本当に、大っ嫌いですよ。アンタみたいな理不尽おばけが」

黒「絶対に殴ってやる。......その為の、拳」

黒がゆっくりと近付いてくる。限られた時間の中で行動を選択する必要があるが、私は少し決断を迷った。

宇野(私は自分の直感を信じる。さっきの奴の右拳は、絶対に危険な攻撃だった。しかし、他の左拳や蹴りはどうだ?同様の威力があるのか?)

必殺の武器があの右拳だけなら、奴は刀を持った素人とそう変わらない。右拳にだけ注意すれば、奴の攻撃はいくらでも凌ぐことが可能だ。
だがもし奴の攻撃全てに人体を壊すパワーがあるのなら、接近戦はすなわち死を意味する。崩しやジャブですら致命傷になる攻撃を、躱し続ける自信は無い。

宇野(危険なのは右拳か、奴そのものか。......答え合わせの為に、死ぬわけにもいかないしな)

接近戦は無謀と判断した私は、地面をひと蹴りして数歩分後ろに下がった。その時、倒れた原住民と青の元へ、ブサイクが走っているのがちらと見えた。

宇野(ブサイクの方は赤を倒したみたいだな。いいぞ、少しは希望が見えてきた)

後方にジャンプした私を見て、黒が走る体勢に入った。黒が一歩を踏み込む前に、私はスーツの裏地から拳銃を取り出した。

宇野「止まれ! 止まらないと撃つぞ!」

黒「っ! じゅ、銃!? なんで!?」

黒が足を止め、銃口を凝視する。概念体であるはずの黒の狼狽ぶりは、脅威に晒された一般人のお手本のようだ。

宇野(思ったとおりだ。日本人が銃を向けられる機会などほとんど無い。人は未知の脅威に怯える生き物だが、元々人間だった概念体もそれは同じだろう)

宇野(奴は銃を向けられたことがない。撃たれたこともない。だから奴は銃の威力を知らない。だからこそ、奴は恐れているんだ!銃の持つ未知の脅威を!)

このまま引き金を引けば、もしかしたら奴を殺せるかも知れない。銃弾の運動エネルギーならば、奴の不可思議な外皮を打ち破り、その内にある肉体にダメージを与える可能性は、確かにあった。
しかし同時に、回し蹴りを放った時の感触が、おそらく無理だと異議を唱える。あれは物理法則が通用する物質ではないと、そう本能が叫んでいた。

黒「なんだよお前ぇ、なんで銃なんて持ってんだよぉ! ただの喧嘩でそんなのって、頭おかしいだろぉおい」

敵が銃を恐れてくれている以上、こちらから撃つのは得策ではない。銃弾が黒の体に当たって、それでもダメージが入らなかった場合。未知は既知となって、銃の脅威は効力を無くす。そうなれば、もう私に残された手立ては0になってしまうだろう。

宇野「口を開くな。両手を挙げろ。膝をつけ。撃たれたくなければ早くしろ」

黒は怯えた表情で両手を上げるが、膝をつこうとはしなかった。銃を前に、逃げる可能性を自ら絶つのが怖いのだろうか。
黒の背後では、ブサイクが青を一撃で沈めていた。ブサイクが強いのか、青と赤が弱かったのかは知らないが、これで残すは黒1人のみ。
私が銃で注意を惹き付けている内に、黒を背後から襲って欲しいのだが、ブサイクはそのまま原住民の安否を確認するようだ。

宇野(仲間ですもんね。そりゃ無事を確かめますよね。もちろん否定はしませんよ。だからせめて、急いでくださいよブサイク!)

黒「お前、そんなの撃ったらどうなるのか分かってんのか? 殺人犯だぞ、殺人犯」

宇野「......」

この銃で殺せるものなら今すぐ殺したいです、なんて本音は言えないため、私は無言で返す。

黒「つぅかポリじゃねえのに銃持ってるなんておかしくねぇか? それ、本当に本物か? 実は玩具なんじゃねえの」

緊張感に耐えかねたのか、黒は都合の良い想像を真実だと思い込み始めた。黒が生身の人間なら、その現実逃避は愚か者の極みだ。が、概念体なら本物の銃を玩具に例えても、間違いではないかも知れない。

宇野(まずいな)

宇野「おい! 勝手に動くな!」

仲間に助けを求めたかったのか、黒は制止も聞かず顔を後ろに逸らし、

黒「金田...金田! 暴力もヤられたのか!? チクショウ、てめえよくも2人を!!」

うつ伏せに倒れている青と、ブサイクを視認した。これで、背後からの不意打ちの目は消えた。

宇野「ブサイク、早くこっちに! もう諸々限界です私!」

黒の目に怒気が宿った。危険な匂いを感じた私は動くな、撃つぞと叫んだ。

黒「うるせぇ! それってどうせモデルガンだろ、分かってんだよ!」

恐怖心からの逃避と、仲間を倒された怒りが重なり、銃の脅威は黒の心から消えてしまったようだ。
私の制止を振り切り、黒はブサイクへ向けて走り出す。私の時と同じように、黒が右拳を大きく振りかぶる。対するブサイクも、同じ動きで黒を迎え撃った。

宇野(クソッ、日本人特有の危機感の無さが裏目に出た)

銃の脅威は既に消えた。なら、私に出来ることはもうこれしかない。

私は黒の右腿に照準を定め、撃鉄を引いた。パンッと、不愉快に乾いた音が周囲に響く。

黒「おおっ!?」

やはり銃弾でも概念体の外皮は貫けないようだ。貫けない壁へと斜めの角度で侵入した銃弾は、行き先を求め、黒の足を下へ向けて這い回った後にどこかへすっ飛んでいったことだろう。
黒は右足を前に浮かされ、体勢を崩した。私の狙いは、黒にダメージを与えることではなく、この崩しにあった。先程の回し蹴りで、衝撃によって概念体を弾き飛ばせることは分かっていたからだ。
黒は殴る体勢から背を仰け反らされる。それを追うように、ブサイクの右拳が黒に迫る。

宇野(私は、理不尽おばけが敵のホラー映画なんて大嫌いだ。でも、)

彡(゚)(゚)「死に晒せやああああああ!!!」

黒「ゼッグズッッ!!」

ブサイクの右拳が黒の顔面を振り抜いた。地面に叩きつけられた黒は、グラサンが砕け、鼻血を流し、ピクリとも動かない。


宇野(味方にも理不尽おばけがいる映画があるなら、もう一度だけ観てやってもいいかな)

戦いの終わりに胸を撫でおろし、私は静かにそう思った。