宇野「あ、危なかった。もう少しで死ぬところだった」

彡(゚)(゚)「おぅ、ちゃんと感謝せえよ」

(´・ω・`)「だから、お互い様だってばおにいちゃん」

彡(゚)(゚)「血ぃ流して倒れてたくせに、あっという間にピンピンしとるなお前。心配して損したわ」

(´・ω・`)「おにいちゃんのお陰で、怪我は日常茶飯事だからね」

宇野「......私が言っていたのは、私ではなく権田さんのことです」

彡(゚)(゚)「?」

宇野「車のヘッドライトを見てください」

宇野が指を指す方を見ると、車のナンバープレートにもたれて倒れているオッさんと、そのすぐ脇で、

彡(゚)(゚)「なんか割れとるな、灯りのところが」

宇野「黒に当たった弾が、不規則に跳ねてここに当たったようです。弾の軌道がもう少しズレていたら、私は権田さん殺しの犯人として追われる所でした」

宇野「私としたことが、あまりに軽率でした。黒に気を取られるあまり、権田さんや周囲の安全への配慮がまるで足りていなかった」

彡(゚)(゚)「まぁ、実際当たらんかったんやからええやろ。しょせん結果が全てや」

(´・ω・`)「おにいちゃんの思考は大雑把過ぎるけど、そうだよ。ミスなんて次から気をつければいいことじゃない」

(´・ω・`)(開始5秒でノックダウンした僕は、今回、判断をミスする土俵にすら立てなかったんだけどね)

宇野「......そうですね。とりあえず今は、さっさと帰る支度をしましょう。なんj民さんは、気絶している権田さんを車に運んでください。原住民さんはその間に、KBSトリオ達を縄で縛ってください」

(´・ω・`)「えっ、この人達も連れて帰るの? でも7人もいたんじゃ、席が足りないよ」

宇野「車の後部座席は前に倒すことが出来ます。狭い思いはするでしょうが、なんとか納まるはずです」

彡(゚)(゚)「縄なんかこいつらに効果あんのか?」

宇野「概念体も完全に物理を透過するわけでは無いらしいので、ある程度は効果があるでしょう。ただ、彼らのパワーがどの程度のものかは未だ不明です。危険ですので、運転中に彼らの目が覚めたら、殴りつけてまた眠らせてください」

彡(゚)(゚)「運転はどうするんや? オッさんを無理矢理叩き起こすんか?」

(´・ω・`)「殺伐としてるなぁ......」

宇野「それには及びません。私が運転して帰りますので、皆さんは車の中で休んでいて下さい」

彡(゚)(゚)「オッさんと違って、お前の運転は安心出来そうにないな。なんか、うっかり人轢き殺しそうなツラ構えしとるもん」

(´・ω・`)「うっかり権田さんを殺しかけたばかりだしね」

宇野「散々な物言いですが、まぁいいでしょう。私の運転の良し悪しは、結果を見てから判断してもらいます。それに、今日初めて車に乗ったあなた方は知らないでしょうが、」

宇野「免許制度が存在する以上、交通事故というのは余程のバカか、余程の不運の持ち主にしか起こらないように出来ているんですよ」


〜少し前の野獣邸〜

MUR「ぐぅぅ......ううああっ、あっ!」

野獣「驚いたな。まだ概念に抵抗しているとは、大した精神力だよ」

MUR「チラチラ話し、かけるな...!お前の声は、腹が減るんだよ鈴木」

ガン掘リア宮殿で『始まりのホモ』に何かをされてから、2週間が経った。初めの三日ほどは何の変化もなく、木村達のようなモノになる気配は無かった。
もしかしたら俺は特別で、俺も鈴木のように自分を保てるのかも知れない。そう淡い期待を抱き始めた五日目を境に、ソイツは俺を刻一刻と蝕んでいった。

MUR「そうだよ(便乗) 、全部あいつが、チラチラ俺のこと見てたから、見ろよホラ見ろよ見たけりゃ見せてやるよ悪いんだ今日はいっぱい鈴木お前もだよ当たり前だよな、ああ、っああああああああ!! 消えてくれ!消えてくれ!!頼む助けてくれよ鈴木ぃ!!」

毎日、毎日、溢れてくる俺の中のもう一人のソイツ。初めは弱かったくせに、だんだん強くなって、抵抗するのがどんどん辛くなっていって。
今では気を抜くと、いや抑えこもうとする最中ですら、ほとんどソイツになってしまっている自分がいた。ソイツになっている時間が、楽で、痛くなくて、幸せに思えてしまうのが、俺は途方も無く怖かった。

野獣「......お前の抵抗は無駄だ。早く諦めた方がずっと楽だぞ、MUR」

MUR「な、なんで......」

野獣「二週間前、『始まりのホモ』はお前に、『概念の卵』を植え付けた。その能力がどういう理屈で、何故奴がそんな能力を持っているのかは俺も知らん」

野獣「分かっているのは、概念の卵が孵化すると、植え付けられた人間は概念体になるということだけだ。今お前の身体の中では既に、その孵化が始まっているはずだ」

MUR「......。」

野獣「概念体になるという事は、みんなが想像するキャラクターになる、というのと同義だ。お前は既にそうなったガン掘リア宮殿の仲間達を見て、必死で孵化に抵抗しているのだろう。ああはなりたくない、ってな」

野獣「だがな、何千何万の人間が抱くMURへのイメージと、お前一人がイメージするお前の人格、一体どちらが強いと思う? 川の激流にどれだけ逆らったところで、いつかは力尽きて流される。だから早く、楽になれよMUR」

MUR「ぅ......ゾ......」

野獣「信じてくれとは、言わない。俺は確かに重要なことを黙って、お前を今酷い目に合わせている。だがあの夜、あの公園でお前に言った言葉に、嘘は無いんだよMUR。俺は本気でお前の人生を救いたいと思っているんだ」

野獣「戦いが終わるまでのほんの少しの時間、力を貸してくれればそれでいいんだ。約束するよ。必ずお前を、家族の元へ帰してやる。お前の人生を取り戻させてやる。だからさMUR」

野獣「もうそんなに......苦しまないでくれよ」

MUR「ち、違うゾ......。野獣......」

野獣「!」

MUR「俺が、俺が嫌なのは、ホモビ時代のキャラに、戻ることなんかじゃないんだ。そんなことより、そんな下らないことより、ずっとずっと、俺が嫌なのは......」

MUR「俺が、ホモビのキャラになっている時......俺の頭の中から、娘と妻が消えてしまうんだ......。それが俺には......死ぬことよりも、耐えられない......!!」

忘れるものか。初めて妻とデートをした日の、あの世界の煌めきを。
忘れるものか。俺のヘタクソなプロポーズを受けてくれた時の、彼女の笑顔を。
ずっとずっと忘れるものか。俺の穢れた過去を打ち明けて、別れを切り出した時の彼女の言葉を。
「私はね、過去を積み重ねて出来た今のあなたを好きになったの。この人となら楽しく未来を歩めると思って、あなたを選んだの。
そんなことで揺らぐほど、結婚する女の覚悟って軽くないのよ?......だからホラ、そんな思い詰めた顔しないで、いつもみたいに笑ってよ」

決して忘れるものか。あの言葉に救われたから、受け入れてもらえたから、今日まで俺は生きてこれたのだ。

MUR「忘れたく...ない。忘れたくないんだよ......!」

そしてその最愛の妻との間に、子供を授かった。娘は妻に似て、賢い子に育ってくれた。そしてこれからもっともっとたくさんのことを学んで、未来へ羽ばたく翼を手に入れるのだ。

きっとあの子は、何にでもなれる。俺が立ち止まってしまった場所をあっさりと飛び越えて。なりたい自分に、行きたい場所に。ほんの少し手助けしてやりながら、俺はそれをずっとずっと見守っていくのだ。

こんな俺でも父親になれるのだと、教えてくれたのはあの子だ。当たり前の家庭の幸せを、教えてくれたのはあの子だ。娘は俺の宝であり、希望の光なんだ。

MUR「忘れない......俺は、忘れない......!」

野獣「......そうか。そこまで言うなら、好きにすればいい」

野獣「だがお前がこの部屋に篭りきりになってから、もう二週間経つ。これはマトモな人間でも気が狂う日数だ」

野獣「たまには外に出て太陽を浴びろ。世田谷区の中なら好きに歩いてくれて構わない。散歩でもすれば、少しはその苦しみも楽になるかも知れないぞ」

MUR「......ああ」

ほとんど朦朧とした意識の中で、野獣の言葉に俺は答えた。野獣が何を言っていたかもよく覚えていないが、『楽になる』という言葉が、とても魅力的に思えた気がした。

野獣「俺はこの後すぐに、遠征に出る。外に出た後は、お前の好きな場所に行けばいい。そしてここに帰ってくるんだ、いいな?」

MUR「......。」

野獣(外に出れば、閉じ篭るより何倍ものストレスがこいつを襲うだろう。視覚、聴覚に障るものが、外にはいくらでも転がっている)

野獣(そうすればこいつの孵化も、きっと加速するに違いない。これ以上苦しめない為にも、とっとと終わらせてやった方がMURの為なんだ!)


〜現在〜

彡(゚)(゚)「な〜んか、オッさんの運転より揺れが激しい気がするんだよなぁ」

宇野「権田さんのような最高級の腕前と比べないで下さい。車の運転なんて、目的地に無事に辿り着けばそれで合格なんですよ」

(´・ω・`)「権田さんの時は凄い快適だったんだけどなぁ」

宇野「狭くて窮屈なのは仕方ないでしょう。普通車に無理矢理7人詰めているんですから」

彡(゚)(゚)「あっ、今コイツ一時停止の標識無視しよったぞ! 交通法違反や!」

宇野「うるっさいですね! 街路の一時停止なんてノルマ稼ぎのネズミ捕りがいなけりゃ、有って無いようなもんなんですよ、......ってキャアアアアアアアアアアアア!!!!」

宇野の操る車がT字路を左折した時、事件が起きた。ランニングをしていたらしい、白いTシャツを着たハゲのオッさんが、かなりの勢いで車に衝突してきたのだ。
ガンッと、振動が車内に広がり、ぶつかった男が仰向けになって倒れた。

彡(゚)(゚)「これは......大変なことやと思うよ」

(´・ω・`)「冗談が、冗談じゃなくなっちゃった瞬間だね」

宇野「いやいやいやいやちょっと待って下さいよ! 今の、見てましたよね!? どう考えても向こうが勝手にぶつかってきたじゃないですか! あのハゲのおっさん絶対当たり屋ですよ! 私が左折するの見えてたはずだもん!!」

彡(゚)(゚)「自己弁護より先にやるべきこと、たくさんあるんじゃないですかねぇ」

(´・ω・`)「あっ、でも見て! あのオジさん立ち上がったみたいだよ!」

宇野「良かった!生きてた! これで捕まらないで済むぞ!生きて五体満足なら、金を握らせてどうにかなる!! ヒャッホー!!」

彡(゚)(゚)「こいつ、テンパりまくって本性だだ漏れになっとるな......ん?」

立ち上がったオッさんの異変に、気付いたのはワイだけのようだった。オッさんの放つ歪な気のようなものを、ワイは肌で感じた。

??「ウ...ウゥゥ......」

彡(゚)(゚)「...おい轢き逃げ女。こりゃあマズいで......はよ、逃げろや」

宇野「は? 逃げる!? そんなことしたら、私問答無用で捕まっちゃうじゃないですか! ここは金でなんとか」

彡(゚)(゚)「そういうの今要らんねん。はよ逃げるんや。いいから早く車バックさせろ」

宇野「......どういうことですか?」

彡(゚)(゚)「あいつ、多分概念体や。それに、とびっきり強いの」

宇野「っ!」

(´・ω・`)「ええっ!?」

ワイがそう言うた瞬間、宇野は元来た道にバックした後、右折してオッさんから離れるよう動いた。流石に、頭の切り替えはクッソ速いみたいや。

??「グウゥゥ......ゾォォォォォォォ!!!」

概念体の咆哮が、車内にまで轟く。概念体は鬼瓦のような形相で、車相手に追いつこうと全力疾走してくる。

彡(゚)(゚)「お、おい! 白Tシャツ着て、ハゲで有名なオッさんって誰がいるんや!?」

宇野「あなたが彼を強いと感じたなら、おそらくはMURだと思われます!」

彡(゚)(゚)「それってどんな奴やんや!」

宇野「KBSトリオなど比にもならない、淫夢史上最強の3人組、迫真空手部の一人です!」

宇野「MUR、KMR、そしてあの野獣先輩によって構成される迫真空手部。MURはその中にあって最上位に位置し、大先輩と呼ばれる強者です!!」

彡(゚)(゚)「野獣先輩より上......やと?」

そんな凄い奴が、なんでこんなところに?
ワイは車のミラーから顔を出し、追跡してくるMURの顔を見る。
奴のその血走った目と鬼の形相からは、欠片の理性も感じられず、疑問の答えはきっと与えられないだろうことをワイは悟った。