宇野「なんJ民さん、原住民さん。お疲れの所で申し訳ありませんが、今日は研究所とは別の場所に宿泊して頂きます」

高速道路に車を走らせながら、宇野が言った。日はまだ高く、まだまだ夜の出番は無いとばかりに、青々とした空が車窓から広がっている。

彡(゚)(゚)「なんや、カプセルホテルにでもぶち込むつもりか? この満身創痍のワイらを」

(´・ω・`)「早くお家帰りたいよぉ」

彡(゚)(゚)「そーやそーやババソーヤー」

原住民の弱音にワイも同調する。時間にして1時間も経っていないが、今日世田谷で起きた出来事はあまりに慌しく強烈だった。とっとと帰って飯食って糞して寝たいのだ、こちらは。

宇野「私だって疲れてるんですから我慢して下さい」

彡(゚)(゚)「こっちが辛いんだからそっちも辛いの我慢しろって、ブラック企業の常套句やないか。ワイらは社畜やないぞ」

宇野「......一方的に権利ばかり主張する奴も、それはそれでどうかと思いますがね。しかし家に帰りたいとおっしゃいますが、」

宇野「あなた方にとっては、coat博士がいる場所こそが家なのでは?」

彡(゚)(゚)「なんで今ババアが出てくるんや」

(´・ω・`)「今から向かう場所に、博士もいるってこと?」

彡(゚)(゚)「ああ、そういう」

宇野「その通り。敵の能力が分からない以上、敵の概念体をそのまま研究所に連れて行く訳にはいきません。どんな手で居場所を割られるか分かりませんからね」

(´・ω・`)「お腹に発信器が付いてたりとか?」

宇野「まぁ、そんな所です。『概念を実体化する技術』は日本国のトップシークレット。研究所の場所を知られる可能性は、限りなく0でなければいけません」

彡(゚)(゚)「今から行く場所は敵にバレてもええんか?」

宇野「少なくとも、連中が事件を大っぴらにしたいと思うまでは、まぁ安全な場所でしょう」

宇野「行き先は国防省技術研究本部。この国の軍事技術の集積所です」

彡(゚)(゚)「......ほう! それは色々、見学しがいがありそうやな!」

(´・ω・`)「きっとカッコいい兵器とかたくさんあるんだよ!楽しみだね!」

彡(゚)(゚)「おう!漢のロマンの宝箱がワイらを待ってるんやで」

(´^ω^ `)「僕、なんだかワックワクしてきたよ」

彡(^)(^)「ワックワクやな!」

宇野「.........。」


〜〜
coat博士「無事に帰ってきたようで何より。さて、まず報告を聞こうか?」

彡(゚)(゚)「報告もクソもあるか! 人のこと荷物扱いしおってからに!」

(´・ω・`)「狭くて、暗くて、怖かったね」

彡(゚)(゚)「頑張って戦ったワイらへの仕打ちがこれかババア!」

場所は、国防省庁舎D棟3階。使用中、とだけ書かれた扉の1室で、概念体どもが不平を漏らす。

coat博士「仕方無いだろう。まさかお前らの姿を庁舎の人間に晒す訳にもいかん。極秘だから、で通すのにも相当な労力が必要だったんだぞ」

パッと見は化物、なんとか誤魔化せても良くて着ぐるみの彼らを、公衆に晒す訳にもいかなかった。そこで「荷物」として彼らを箱に詰め、このcoat博士の研究室まで連れてきたのだが......。

彡(゚)(゚)「色々見学しようと思っとったのに! ワイらの純真なワックワクを返せ!」

(´・ω・`)「ヘリコプターとか見たかった......」

そうとうご立腹のようだ。

宇野「箱に詰められようが詰められまいが、一国の軍事技術をそう易々と拝めるわけないでしょう」

彡(゚)(゚)「じゃあ最初からそう言えやボケ! 夢と現実の落差が激し過ぎるんや!」

coat博士「また学べて良かったじゃないか。そう、夢が無いと人生はつまらんが、あまり夢を見過ぎると現実に叩き起こされて痛い目を見るぞ」

(´・ω・`)「叩き起こした側が言うセリフじゃない......」

coat博士「まぁ今度市ヶ谷記念館に連れていってやるから、それで我慢しろ。ヘリコプターも見れるぞ」

(´^ω^ `)「ほんと? やったぁ」

彡(゚)(゚)「あっさり懐柔されんなや原住民!」

coat博士「自衛隊のカッコいい武器も見れるぞ」

彡(^)(^)「気が利くやんかこのババア!」

宇野(チョロいな......)

coat博士「納得してもらえた所で、今日起きたことの報告をして貰えるかな?」

彡(゚)(゚)「おうええで。まずな、車が黒くてゴツくて固たそうやったんや。そんで出てきた権田のオッさんが、これまた黒くてゴツくて頑固そうで、しかも長かったんや! そん時ワイは思ったな、車に足らんかったもんをこのオッさんは持っとるって。そんでそんで、ドライブがこれまた楽しくてな、」

coat博士「よし分かったもういいぞ。では宇野くん、頼む」

宇野「はい」

彡(゚)(゚)「なんでや! 話はまだこれからやぞ!」

宇野「世田谷区にはcoat博士の予想通り、KBSトリオがいました。交戦の結果、権田さんが精神をレイプされたものの、なんJ民さんの奮戦のおかげで3人の生け捕りに成功。そのサンプルがこちらです」

彡(゚)(゚)「おい、ワイの話を聞け!」

(´・ω・`)「おにいちゃん、ここは下がろうよ」

coat博士「ほう、これがKBSトリオか。ビデオの中の容姿と何一つ変わらんな」

宇野「撮影から十数年経って、容姿の劣化が起きていないのは不自然ですね。概念体には若返りの効果でもあるんでしょうか」

coat博士「というより、ビデオの中の容姿の枠にハメられたのだろうな。概念体になることで、『皆が思っているKBSトリオの姿』に変えられてしまったのだろう」

coat博士「それにしても、素晴らしい結果じゃないか。交戦し、概念体を生け捕りにして帰ってくる。成果の基準は、文句無しの最良だ」

宇野「いえ、そういう訳でもありません」

coat博士「ん?」

私は、世田谷区で起きた出来事をかいつまんで説明した。概念体に物理攻撃が効かなかったこと、私が肌で感じた黒の右拳の脅、そしてKBSトリオを、拳1発で倒したなんJ民の話。
精神を犯された権田さんの豹変と、帰りの途中で遭遇したMURの強度、そして奴が産み出した謎の肉塊共の話を。

coat博士「ふむ......。MUR、か」

宇野「今日起こったことの概要は以上です。更に詳しい説明は、なんJ民さん達から聞いてください。......一つ、質問してもいいですか?」

coat博士「なんだね? 私の3サイズでも教えて欲しいのか?」

彡(゚)(゚)「なんかこう、己の年齢を弁えない女ほど、痛々しいもんも無いんやなって」

coat博士「お前ほんと、三十路の女性に殺されても文句言うなよ?」

んん、と咳払いしてから、私は言った。

宇野「概念体って、そもそも何なんですか?」

coat博士「......。......と、言うと?」


宇野「まぁ、元々違和感はあったんですよ。『概念を実体化する技術』の触れ込みはこうでしたよね。少ないエネルギーで大きなエネルギーの物体を、なんでもアリに産み出せる夢の技術だと」

coat博士「そうだな」

宇野「つまりは概念を利用して、ある特定の物体を創る、ただそれだけの技術だったはずです。爆弾は爆弾で、人間は人間でしかありません。だのにその枠を外れた『能力』が備わっているのはおかしいでしょう」

宇野「あなたの技術に求められていたのは、ただ爆発するだけの爆弾です。なのに今は、物理攻撃で破壊出来ない、不良品の爆弾が生まれてしまっている。求められていたのはただの人間なのに、そいつは肉塊を身体から生成する奇妙な能力を備えている」

宇野「野獣先輩が脱走したのも、それと関係があるんじゃないんですか? 概念体とは、つまりどういう理屈の何なのですか。私が出会った概念体は、まるっきりただの化物でしたよ」

coat博士「簡単な話さ。全ては、ただ私の技術が未完成だった故に起きたことだ」

宇野「......あっさり認めるんですね」

coat博士「恥ずかしいから隠していたかったんだがな。君の言う通り、概念を利用して『100%の物体』を産み出すのが、本来の私の目的だった」

coat博士「だが私の技術はまだそこに届かなくてな。私が作った野獣先輩やなんJ民は、『半分が概念、もう半分が物体』で出来た、言わば出来損ないだ」

彡(゚)(゚)「テメェ、ワイを今出来損ないと言ったな!」

(´・ω・`)「おにいちゃん、抑えて!」

coat博士「概念ではあるが、実体を持つ物体でもある。物体ではあるのに、完全な物体では無い。その矛盾の答えは、君が誰よりも正確に味わったはずだ」

そう言われ、左足の踵が黒の肋骨を捉えた時の感触を思い出す。銃弾の運動エネルギーを持ってしても、貫けなかった概念体の外皮を思い起こす。
触れない、わけでは無い。衝撃を加えて吹っ飛ばすことも可能だった。しかし薄皮一枚先の内部には、一切の影響を与えられなかったあの不気味な身体。

coat博士「出来損ないは、出来損ないであるが故に、完全であるよりも強い力を発揮した。一つ目の特徴は君の言った通り、ただの攻撃には影響を受けないこと。そしてもう一つは、」

coat博士「概念体の半分が物体で出来ているが故に。皆が思っている対象の強さや能力、即ち概念を現実に実体化出来る、という点だ」

宇野「イマイチ、良く分かりませんね」

coat博士「ではこれから説明していこう」