coat博士「例えば、ベンチプレスを300㎏持ち上げられる人物がいたとする。その男は多くの人間に認知されていて、とても有名人だ。さて、彼を認識する多くの人間の意識、概念からデータを取り出し、『概念を実体化する技術』で概念体として生み出したとしよう」

彡(゚)(゚)「ベンチ300って化け物やろ」

coat博士「生み出した概念体は、ステータス上はベンチプレス300㎏を持ち上げる能力を持っている。ここでもし彼が純粋な概念であれば、ステータスがいくら凄いところで、実在する重りを持ち上げることは1㎎たりとも出来ない。実体が無ければ、それはただの幽霊のようなものだからな」

coat博士「逆に、彼が純粋な実体であれば、彼はステータスの通りに300㎏の重りを持ち上げられるだろう。しかし先述の通り、私が作った概念体はそのどちらでも無く、概念が半分、実体が半分で構成されている」

coat博士「実体を持っている為に、概念体は自らの概念上のステータスをもって、実在する物体に影響を及ぼせる。しかし、概念体の実体は半分しか無い為、その能力全てをステータス通りに実行出来るわけではない」

彡(゚)(゚)「??」

coat博士「まとめると、概念体は概念として定められた能力を、実在する人間や物体に振るうことが出来る。しかし完全な実体ではないために、その効力は本来の力の半分程しか発揮出来ない、ということだ」

彡(゚)(゚)「ベンチ300のオッさんを概念体にすると、実際にはベンチ150しか持ち上げられないオッさんが生まれてくるってことか?」

coat博士「そういうことだ。その男がオッさんかどうかは知らんがな」

彡(゚)(゚)「なんか大したことなさそうやな」

coat博士「産み出す概念体のステータスによるさ。例えばゴジラを概念体として生み出したとしよう。するとパワーこそ半分にはなるが、依然人智を超えたパワーと巨体を持つあのゴジラが、実在する兵器が一切通じない無敵状態でこの世に現れることになる」

(´・ω・`)「うわぁ・・・」

彡(゚)(゚)「考えたくもない光景やな」

宇野「まぁゴジラに通常兵器が効かないのは元々ですけどね。ゴジラを殺せるのはオキシジェン・デストロイヤーもとい芹沢博士だけです」

彡(゚)(゚)「じゃあ、あれか? 結局はステータスが強いもん勝ちってことなんか?」

coat博士「そういうわけでもない。概念体の強さを決める要因はもう一つある。今からそれを説明しよう」

そう言うとババアはペンと紙をとって、机に向かいあって何かを書き始めた。そして30秒程経つと、ワイらにほれ、と一枚の紙切れを見せてくる。

彡(゚)(゚)「・・・なんやこの落書き」

coat博士「今私が即興で考えた、絶対無敵宇宙最強くんだ。どうだ強そうだろう」

適当に書かれた人間のようなものの絵の横に、無敵!だの、絶対勝つ! といった陳腐な文字が躍っている。お世辞を言う気も失せる程、その絵はひっどい出来であった。

coat博士「こいつにはな、どんな攻撃も跳ね返す絶対バリアと、絶対に防げない最強のスピアを持っているんだ。それに時間や運命を操作する能力を持っていてな、なんでも思い通りに出来るんだ。凄いだろ」

彡(゚)(゚)「やめろや、痛々しい通り越して可哀そうになってくる」

coat博士「それでな、女の子にはもうモテモテでな、でも色恋沙汰には鈍くてな、でも優しい笑顔を振りまく度にそれはもう女の子がメロメロになってな」

宇野「まだ続けるんですか」

(´・ω・`)「僕、こんな博士の姿見たくなかったよ」

coat博士「だからゴジラなんて一瞬で殺せるぐらい強いんだよ」

宇野「......。いや、それはおかしいでしょう」

coat博士「何故だい宇野くん。私の絶対無敵宇宙最強くんは本気になれば星すら壊せるし、光速を超えたスピードで移動することも可能なんだぞ。ステータスを見れば、ゴジラなんか敵にもならないのは一目瞭然だ」

宇野「冗談でもむかっ腹が立つのでやめて下さい。怪獣王ゴジラを相手に、こんな紙切れの落書きなんて比べるのもおこがましい。格が違います」

coat博士「格が違うから、君は絶対無敵宇宙最強くんを、ゴジラより上だと認めないんだな? では、君の言う格とは何によって決まるのかね?」

宇野「それはもちろん、誰もが認める実績を持つかどうか、でしょう。ゴジラには多くの子供達に畏怖を、多くの大人達には深いメッセージ性を刻み込んだ実績があります」

coat博士「その通りだ。もっと簡単に言ってしまえば、ようするに知名度だな。概念とは『皆に共通し、皆で共有するおおよその意識』のこと。ステータスがどれだけ凄かろうと、今この場にいる人間が初めて認識した絶対無敵宇宙最強くんなんて、概念としては屁にも劣る」

coat博士「まとめるぞ。概念体の能力を決める要素は大きく2つ。対象となる概念のステータス、そしてその知名度だ。能力を求める数式は、大雑把に言うとこうだな」

『概念体の能力=概念のステータス×知名度』

coat博士「ステータスばかり大きくても、知名度が無ければ存在は希薄になる。逆に知名度がいくらあっても、元々の能力が低ければどうしようも無い。つまり、知られざる英雄やハンプティ・ダンプティを概念体にしても、何の役にも立たないってことだ」

彡(゚)(゚)「はえ〜」

(´・ω・`)「......。」

coat博士「では次のステップに進もう。私はこれから、君たちが持ち帰った概念体を使って彼らの実態を把握する。1日では終わらんかも知れないから、そうだな。大体3日程を目処としてくれ」

宇野「実態を把握するって、あなたは彼らの生みの親でしょう? 分からないことなんて、例えば何があるんですか」

coat博士「むしろ分からないことだらけさ。私が直接手がけたオリジナルは野獣先輩となんJ民だけだ。野獣先輩が増やした仲間の構造は私の知るものと違うかも知れないし、増やし方も分からない。それに私は概念体同士のダメージの与え方や倒し方、」

coat博士「そして概念体に精神を犯された人間を、治す方法も調べなければならん」

宇野「......ええ、そうですね。事態の収拾にはそれが不可欠ですし、権田さんも元に戻していただかないと車の運転もままなりません」

coat博士「別に君が運転すればいいじゃないか。 帰りはそうして来たんだろ?」

宇野「勘弁して下さい。しばらくはハンドルも触りたくないんです私」

coat博士「...? そうかね。まぁとにかく、私が研究をしている間は君たちの時間が余るわけだ。そこで、だ」

彡(゚)(゚)「その間に見学して来ていいってことやな!」

(´・ω・`)「ヘリコプター見ようよヘリコプター」

coat博士「今度連れてってやるって言っただろバカ共。そんなものは後回しにしてやってもらうことがある。戦闘訓練だよ」

彡(゚)(゚)「訓練だと? 嫌やそんな面倒臭そうな」

(´・ω・`)「なんか怖そうな響きがするねおにいちゃん」

宇野「むしろ今までやっていなかったんですか? 野獣先輩と戦うのが目的で産まれてきたのに、随分甘やかされて育ったんですね」

coat博士「産まれてから今までの2ヶ月間は、全て教育に注いできたのでな」

宇野「何故そんな悠長なことを」

coat博士「仕方ないだろ。こいつら、特になんJ民は精神年齢が幼な過ぎて戦闘以前の問題だったんだ。会話してる最中、飯の最中、寝てる時ですら隙あらば脱糞する様な奴だったんだぞ? むしろ短期間でここまで真っ当な人間に近づけた私の手腕を褒めてくれ」

(´・ω・`)「ああ、昔のおにいちゃんは確かに酷かったよね。理由も無く暴言吐いたり騒いだり、気分で僕を殴ったり、糞漏らしたり、まさにジャイアンそのものだったよ」

宇野「ジャイアンは糞は漏らしませんよ、糞は」

彡(゚)(゚)「まぁ今でも漏らそうと思えばすぐ漏らせるけどな」プリッ

coat博士「漏らすな! 処理するこっちの身にもなれこのバカ!」

彡(゚)(゚)「へいへい自分で拭きゃあええんやろ。半漏れやから気にすんな」フキフキ

宇野(臭い......)

(´・ω・`) (臭いが凄く気になる......)

coat博士「ん、とにかくだ。今までは指導する人間がいないこともあって、2人にはロクな訓練を積んでこなかったんだ。概念体の能力は筋トレなんかで強くならんし、組手をさせようにも2人の体格差が大き過ぎた。やってきた事と言えば、武道の映像を観せてイメージトレーニングさせたぐらいだ」

彡(゚)(゚)「イメトレの達人と呼んでくれて構わんよ?」

(´・ω・`)「実技の出来ない保健体育マスター、みたいな称号だね」

宇野「酷いですね。何もやってないようなものじゃないですか」

coat博士「だから君に鍛えてやって欲しいのさ。もちろん2日や3日じゃどんなに上手くいっても、付け焼き刃程度のものしか身につかんだろう。そんなもんでも、きっとどこかで役に立つ」

coat博士「なにせ、敵は身体こそ無敵だが、その身体を動かす頭は素人そのもののはずだからな」




暑い陽射しと青空の下で、車が行き交い、親子が手を引いて歩いている。ぼんやりと風景を眺めると、右を100m進んだ曲がり道の角に、ネズミ捕りが獲物を待っているのを見つけた。わざわざ見えにくい場所に立つ熱心な仕事ぶりに苦笑していると、目の前を赤い車が横切り、曲がり角に向かって急ぎ足に通り過ぎていった。
あらら、御愁傷様。そう車の尻に向けてポツリと呟くと、彼は視線を前方に戻し、そのまま斜め上に傾けた。

いつもと変わらぬ日常。ずっと続いていくはずの平和な世界。その昼の真っ只中に、始まりのホモは1人立っていた。
先程までとは違い、その顔はいささか渋い。太陽の陽射しが鬱陶しいのもあったが、それより当てが外れた悔しさが大きかった。

始まりのホモ「流石に、そんな馬鹿なわけ無かったか。無駄骨折っちゃったなぁ」

林の向こうに覗く庁舎を車道から眺め、彼はため息をついた。KBSの気配を追ってここまできたのだが、そこで待っていたのは防衛省の敷地だった。

始まりのホモ「いつかの時の為に、研究所の場所は押さえときたかったんだけどね」

まさかここが本拠地な訳ではあるまい、と彼は推測する。敵の概念体が出入りするには、あまりに警備が、無関係の人間の目が強すぎる。こちらの探知を恐れた、一時的な避難と見るのが妥当だった。
良い判断だ、と彼は思った。今はまだ、こちらの存在を公にする訳にはいかない。敷地に少しでも踏み込めば感知される防衛省は、隠れ場所としては最適だ。
場所が場所なら、嫌がらせ半分に攻め込むのも面白そうだ、といった驕りからくる浮かれもすぐに失せた。代わりに胸の内に湧いたのは、

始まりのホモ「博士に思惑を読まれたみたいで、あまり良い気はしないねぇ」

何の価値もない、無意味な悔しさだった。戦った訳でも、実際に痛手を被った訳でもない。それでも心に、小さな屈辱感が引っかかる。理性では消すことの出来ない、感情のわだかまりが。
別に今すぐお前らをどうこうするつもりは無かった、馬鹿じゃなきゃ普通はそうすると思っていたさ。相手もいないのに、そう言ってやりたい気持ちが湧いてくる。その衝動は、幼稚な万能感から来る駄々というよりは、生来の負けず嫌いな性格からのものだった。勝負事に対するプライドは、人より数倍強い自負がある。

始まりのホモ「落ち着け、僕の悪い癖だ。それよりも、もっと考えるべきことがあるだろう。例えば、そうだ。あの庁舎の落とし方とかだ」

消えない感情は、他に転化するのが手っ取り早い。彼は目の前に佇む国家機関へと、その思考を切り替えた。
国家を支える一翼、防衛省のその総本部。門の脇に堂々と飾られる大臣筆の省庁看板は、これから戦う敵の規模を、改めて意識するのに充分な荘厳さを誇っていた。

始まりのホモ「よく考えなくても、とんでもない事だねぇ。国を敵に回すってのは」

勝ちに至る戦略は、ある。その為の計画も順調に進んでいる。だがそれに従って、彼方にあって此方に足りないものというのも、当然見えてくる。

一つは、人や物を動かす為の資金。そして何より足りていないものは、戦略や戦術を練り、戦闘の指揮を振る軍事的な頭脳だった。

始まりのホモ「こっちは所詮、ホモの寄せ集めの素人だからなぁ。今のままじゃ、向こうに頭脳戦の土俵に上げられたら勝ち目が無い」

軍事に聡い協力者が欲しいところだ。だが、例えば傭兵を雇うにしても金が要るし、そもそもそういった手合いを日本に呼べるのか、という点にすらこちらは疎い。また仮に雇える条件が整ったとして、果たして協力してくれるかも怪しい。何せ世間的に見れば、こちらはほとんど.........。

始まりのホモ「あ、そっか。要るじゃん、協力してくれそうな奴」

彼の顔が一転、晴れやかになった。思いついてみれば答えは明快で、何をそんな悩んでいたのかと馬鹿らしくなる。
協力者の条件はシンプルだ。軍事に聡くて、金が目的ではなくて、国を敵に回しても付いて来てくれて、日本の秩序が乱れても嘆くどころかむしろ大喜びしてくれる奴。

そんな条件に当てはまるのは、彼が思いつく限りではたった一つ。


始まりのホモ「そうだ、テロリスト、呼ぼう」


そうと決まれば早速手配だ、と彼は踵を返す。小躍りしかねない程に浮かれた気分でしばらく歩くと、水を差すようにポケットの電話が鳴った。
誰だいこんな時に、と思いながら呼び出しに応じると、声の主は野獣だった。

野獣先輩「もしもし、はじめさん? MURがまだ帰ってきていないんですが、そちらで見つけてはいませんか?」

嬉しいことは、重ねて訪れるものらしい。

始まりのホモ「ええ、何やら暴れていたようでしたので、彼は私が保護しましたよ。今夜、またガン掘リア宮殿に集まりますよね? その時に彼も連れていくので、田所さんも安心して休んでいて下さい」

そう言って電話を切った始まりのホモは、その場で立ち止まり、しばらく肩を震わせる。やがて、もう堪え切れないと言わんばかりに腹を抱えながら、彼は大口を開けて笑いだした。