ことり「ん…」

心地よい太陽の光が窓越しに私のことを照ら

し、朝だと気づかせます。

いつの間に寝ていたのか、ことりは見知らぬ

ベッドの上で仰向けになっていました。

思わず目をこすり、部屋を見渡します。

ここはどこだっけ、と記憶を探ってみても答

えには辿り着けません。

まさか、誘拐とか…。いや、そんなことない

よね。

誘拐されたなら、こんなにゆったりとした状

況ではないわけだし。

部屋はベッドの他に小さな本棚が一つと小

机、その上にはノートが一冊と文房具が散ら

かっています。とても簡素な造りです。

机の上を覗こうとベッドから降りたと同時

に、ドアが開きました。

絵里「あら、おはよう。もうちょっと寝てて

も良かったのに」

絵里ちゃんです。

刹那、これまでの記憶が蘇りました。

怪盗エリーチカから予告状が届いたこと。初

めて遭遇し、暗闇の中で発信機を取り付けた

事。再び予告状が届いて、にこちゃん達と対

策を練った事。真姫ちゃんがことり達を騙し

て、エリーチカ側についているという事実を

を暴いた事。

そして、あの夜にことりは「お宝」として、
怪盗エリーチカに盗まれたのです。

それはずっと前から実はわかっていたことのようにも感じられます。

何故だろう?

ことり「絵里ちゃん、私…」

絵里「お話はご飯を食べながらでもいいんじ

ゃない?あなたのためにしっかり腕をふるっ

て作ったのよ」

ことり「あ、ありがとう」

絵里「それじゃあ、リビングに行きましょう

か」

私達は寝室を後にし、リビングへ向かいました。

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リビングには比較的大人数の家族が使うような大机か一つ、その上にはしっかりと料理が並んでいました。

ことり「ロシア料理じゃないんだね」

絵里「私だって、日本食ぐらい作るわよ」

絵里ちゃんが作ってくれた味噌汁とご飯から香ばしい匂いが漂ってきて、食欲を抑えられません。

絵里「ことりが何食べるのか分からなかったから、とりあえず適当につくったの。もしかしてお気に召さなかったかしら?」

ことり「そんなことないよ。お腹すいちゃったし、もう食べていい?」

絵里「勿論よ。あなたのために作ったんだもの」

ことり「いただきます」

絵里「ええ、召し上がれ」

なんだか夫婦みたいです。

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ことり「ふう…ごちそうさま」

絵里「お粗末様でした」

机に並んでいたごはんとお魚、豆腐とわかめの味噌汁に目玉焼きと漬物はすぐに姿を消してしまいました。

ことり「とっても美味しかったよ。また食べたいなぁ」

絵里「食べたいなら幾らでも作ってあげるわよ」

ことり「えへへ」

食後ののんびりとした雰囲気が漂って、何だか眠ってしまいそうです。

絵里「さて。あなたには色々説明しなきゃいけないことがあるわね」

ことり「そ、そうだね」

忘れていましたが、ことりには色々と質問をする義務があるみたいです。

そもそもここは何処なのか。

なぜ怪盗エリーチカはお宝として私を選んだのか?

他にも色々ありますが、多すぎて思いつかないかもしれません。

絵里「そうね…と言っても、私は盗まなければいけないものを盗んだだけとしか言えないけれど」

盗まなきゃいけないもの?

ことり「そ、それってどういうことかな…」

絵里「平たく言うとね」

ことり「うん」



絵里「実は私達、姉妹なのよ」


ことり「えええええ!!」










絵里「ま、まあ冗談だけどね」


ことり「そ、そうだよね」

と言いつつ、一瞬期待しちゃった自分もいます。

絵里ちゃんがお姉さんだったら、ことりは嬉しいんだけどね…。



絵里「別に血縁関係は無いんだけど。実は、元から私は、貴方の事を知ってたみたいなの」

絵里「怪盗としてことりと会う前からね」


ことり「そ、そうだったの⁉︎」

絵里「ええ」


絵里「時々、夢に貴方の姿が浮かび上がるのよ。まるで昔からの知り合いであるみたいに。」

絵里「それは友人として二人で遊んでいる時でもあったし、全く関係無い他人として出てくることもあったけど」

ことり「何だか不思議だね」


ことり「でも、ことりも最初絵里ちゃんの事を見たときから、なんか引っかかってたんだよ」

絵里「引っかかってた?」

ことり「うん。初めて会ったときには、すでに何処かでもう一度会えると思い込んでたの」

ことり「怪盗として再び姿を表すって、予告状よりずっと前から」

絵里「そうなの…」


ことり「真姫ちゃんの事はすぐ気付いたんだけどね」

絵里「やっぱり、真姫は嘘つくのが下手なのね」

ことり「いや、そんな事ないよ。現にことり以外の人たちは、真姫ちゃんの正体には気付いてなかったわけだし」

絵里「あら、そうなの?じゃあ、あの子は思ったより上手くやってくれてたのね」

絵里「まあ、ことりには気づかれたけど」

ことり「うん。あれくらいはすぐわかるよ」

絵里「で、話を戻すけど。私は真姫と海未にも協力してもらって、貴方の事を調べ始めたわけ」

絵里「そして、貴方が刑事である事、多くの仲間に取り囲まれて過ごしている事、真姫の人間関係とそう遠くない事がわかった」

ことり「それで、真姫ちゃんをことりに接近させたわけだね」

絵里「そういう事」

絵里「発信機は気づかなかったわ。流石ことり、と気付いた時には思ったわ」

ことり「やっぱり?ことりも、怪盗エリーチカの居場所を突き止めるのに必死だったんだよ」

そうです。

ことりもまた、絵里ちゃんのように彼女を捕まえるために必死だったのです。

ことり「結果的には、ことりが逆に捕まっちゃったんだけど」

絵里「まあ、半ば強引に誘拐したと言われても文句は言えないわ」

ことり「そ、そうなんだ//」

ことり「ここはところで何処なの?」

絵里「あの街から遠くはなれた、とある田舎の一角よ。そう簡単には追ってこれないわ」

ことり「そんな遠くまできたんだね」

絵里「まあね」

ことり「何でこんな所まで来たの?ここはアジトじゃないよね?」

絵里「まあ、そうね。仕事の旅にわざわざこんな遠くまで戻ってくる気力も時間も無いわ」

絵里「なんとなく、都会の喧騒から遠ざかりたかったから?私にもよくわからないわ。
まあ、実際に私の家はここな訳だから誰にも文句は言われないけどね」

絵里ちゃんがふと立ち上がり青い空が垣間見える窓をおもむろに開けます。部屋の中へ新鮮な空気が入り込み、都会とはまた違った雰囲気を匂わせています。

ことり「ここの空気、きれいだね」

絵里「うん。周りには殆ど人が住んでいないし、自然に囲まれているから」

絵里「いつかことりを連れて来たいと思っていたのよ」

柔軟で葵い風が吹きつけ、静寂が室内を支配しています。

世界には私達の他に誰も存在しないと言わんばかりの、透明でとても静かな風です。

絵里「私が最後に出した予告状の事、覚えてる?」

ことり「勿論覚えてるよ」

ことり「【永遠の輝き】でしょ?」


絵里「そう。その答えは、まぎれもない貴方自身だったの」

ことり「うん。ことりも、それを受け入れたよ」

絵里「その為に、これまで怪盗をやってきたと言っても過言ではないわ」

ことり「じゃあ、これまでのは全て前座だったと」

絵里「そうね。貴方に近づく為に作戦を考えるのは大変だったんだからね」

ことり「えへへ。ありがとう」



絵里「あら、もうこんな時間。そろそろ戻らないとね」

ことり「えっ、もう戻るの?ここにしばらくいるんじゃないの?」

絵里「いつまでもここにいるわけには行かないわ。ことりだって、みんなを心配させてるわけだし」

ことり「まあ、そうだけど…」

絵里「私も、これまで通り怪盗を続けなきゃいけないからね」

ことり「ことりを盗んだのに?」

絵里「これが私の仕事なのよ」

絵里「空から見下ろす街って、いつもと全然違う景色なのよ。ことりも見たんだし、わかるでしょ?」

ことり「ああ。あれはきれいだったね」

ことりは、あの夜の事を思い出します。

沢山の風船を使って、沢山の光が灯る夜の街を空から見下ろしたあの夜の事を。

あの景色はしっかりと脳裏に焼き付けられています。

ことり「じゃあ、もう一回二人であの景色を見たいな。今度、またあの街で」

絵里「勿論いいわよ。それくらいなら、お安い御用だわ」

ことり「やった!約束だからね?」

絵里「私が嘘をつくとでも?」

ぎゅっとしっかり指を結びつけて、私たちは約束します。

二度と離れられないくらい強く。

ことり「ゆーびきりげんまん」

絵里「嘘ついたら」

ことり「はりせんぼんのーます」

ことえり「ゆびきった!」


絵里「また、盗みにいくんだから。覚悟しててよね?」

ことり「えへへ」

怪盗と刑事。
全く違う立場の二人がこうやってそばにいるなんて、何だかつくり話みたい。

ギュッ
ことり「絵里ちゃん、だーいすき」

絵里「私も」


つくり話だとしてもいいんです。

このストーリーは、ずっと続いていくから。


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夜9時59分。

静寂が街を包み込み、あらゆるものを束縛します。

それはまるで何かを待つように。


しかし今宵導かれる来客は、決して人々が待ちわびた人ではないようです。

私を除いて。


にこ「しかし、あんたを盗んでからまた自分からのこのことここにやってくるなんて、奇特な奴ね、エリーチカも」

ことり「でも、きっと絵里ちゃんは来るよ」

ことり「ここにある【満点の夜空】を盗みにね」

にこ「確かに綺麗な絵だけどね」

花陽「きっと、プライドみたいなのがあるんだよ」


にこ「でもここは完璧に警察に包囲されてるし、ヘリコプターも辺りを旋回してるのよ。今度こそ捕まるに決まってるわ」

にこ「怪盗エリーチカ、万事休すね」

花陽「そういえばさっきからその音が聞こえないんだけど…気のせいかな」

ことり「確かに、10分くらい前からヘリの音が聞こえないね」


にこ「まさか…」

プルルル

にこ「希⁉︎なんでこんな時に電話してくるのよ」

にこ「はい、もしもし」

希『大変!ヘリがジャックされたよ!』

にこ「ええええ!何でよ!」

希『わかんないけど、多分エリーチカの部下たちだと思う。いつの間にか予告された場所から離れた所まで勝手に行ってたんよ』

にこ「あいつぅ…中々やるわね」

希『あと、伝達ミスで護衛の皆さんは誰もそっちに行ってないかもしれんよ』


花陽「本当です!この美術館の周りには誰も私たちの他に誰もいないよ!」

にこ「はぁ⁉︎いったい何が起きてんのよ!」

希『分からんけど、誰かが情報を錯乱させてるとしか…』

ことり「絵里ちゃんの仕業だね…」

ボ-ンボ-ン

夜10時。

街の中央塔が時刻を告げる鐘を鳴らし、同時に街の窓ガラスが勢いよく弾け飛びます。

パリ--ン!

にこ「な、なに⁉︎」

花陽「来たみたいですね…」


輝かしい満月を借景とし、その可憐な金髪を風になびかせながら彼女は姿を現しました。


にこ「きたわね…」

ことり「待ってたよ」



ことり「怪盗エリーチカ」



絵里「じゃあ、始めましょうか」


絵里「Have a good night(素敵な夜を)‼︎」

素敵な夜はまだまだ続きます。

私の恋も同じくして。






【終わり】








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