勢いは弱まったものの、雨は依然として降り注いている。視界を曇らす暗い空と、絶え間ない雨の線は鬱陶しく、また雨でぬかるんだ地面も動き辛い。身体を濡らす雨は、しかし気温の高さから冷えることなく、生温い湿気の不快感だけを与えてくる。
恵みの雨への感謝など、忘れて久しい都会人の一員として、私もシンプルに雨がうざかった。

「さて、奈央さんの彼氏はどいつかな」

雨に濡れるのも構わずに性交渉に励む、被害者達の群れへと足を運ぶ。精神レイプの被害者であり、加害者である彼らの元へと。

coat博士『精神を犯された人間の特徴は、大きく2つしかない。一つは、強烈な世田谷区への帰巣本能を持つこと。もう一つは、同性との性交渉を激しく求め、そのことしか考えられなくなる、というものだ』

虚ろな目で、涎を垂らし、排泄物に塗れた身体で腰を振る彼らの姿は、ゾンビを想起させた。自由意志を剥奪された人間ほど、痛々しいものはない。

coat博士『彼らは自我を奪われているだけで、肉体はただの人間だ。手荒なマネは控えるようにな』

博士によれば、彼らはただの人間。ならば気絶させて動きを止めたいのだが、自我がない、というのが少々面倒くさい点だ。
気絶させるには、心臓から頭部への血の巡りを止め、酸素の供給を一時的にストップさせる方法がある。だが漫画やアニメと違って、手刀をうなじに叩き込むのは、現実にやるとかなり死にやすいので危険だ。首を締めるというのも時間がかかるし、蘇生の為の喝を忘れるとやっぱり死にやすい。
では急所を突く方法はどうかというと、これもマズい。金的や鳩尾といった正中線の急所は、力加減を間違えたり狙いを外すと、甚大な後遺症が残る。しかもこの急所は『地獄のような痛みによって気絶させる』箇所なので、自我の無い彼らには、傷付くだけで気絶の可能性は低いかも知れない。
ならばと、私は手当たり次第に、彼らの顎に拳を放つ。顎は脳を揺らし、昏倒させる急所だ。これならば、自我の有無に関わらず、身体を動かす脳の機能をストップ出来る。
私は手近な奴から、一人、二人と気絶させていく。すぐ隣で仲間が倒されているというのに、他の奴らは見向きもしない。SEXのこと以外は、本当に頭の中に無いのだろう。

しばらくすると、いよいよ最後の一組まで殴り終えた。ワゴン車に運ぶ作業は権田さんにやってもらおう、と思いながら、四つん這いになった受けの男に蹴りを放つ。次いでタチの男に向け、若干疲れた腕で最後の一振りを放った。すると、

宇野「! えぇ?」

拳には、KBSトリオを蹴った時の、手応えの無いあの嫌な感触が。そして顎を抉られたタチの男は平然として、気絶した相方の穴へと腰を振り続けている。

宇野「概念体......ですか? こいつが?」

その男は、ただの年配のサラリーマンにしか見えなかった。以前、一応チェックしたホモビ出演者の顔のどれとも合致しないし、何よりKBSトリオや我修院と違って、自由意志やキャラが全く見受けられない。

宇野「どういうことだ? 凄いマイナーな男優かなにかか?」

いずれにしろ、概念体であるなら、なんJ民に頼ることになりそうだ。そう思いなんJ民の方を向いてみると、

我修院「ホラ、ホラ、もっと食べたまえ。たらふく食べたまえ。美味いと感じる喜びを、もっともっと噛みしめたまえ」

彡(^)(^)「うめえ! うめえ! こんな美味い肉喰ったの初めてや!」

(´・ω・`)「うめ、うめ......素晴らしいね。噛み切れない程ではない絶妙な固さが、歯応えとはこういうものだ、と教えてくれているようだ。噛む度に溢れ出る肉汁とスパイスが混じり合い、幾度もの感動を与えてくれる」

我修院「まったく羨ましいね。私にとっては飽き果てた食材でも、君たちにとっては新たなる美味の発見となる。嗚呼、私ももう一度だけ、もう一度だけでいいから、君たちのような快感をまた味わいたいよ」

何故か、仲良く食事会を開いていた。

宇野「なにやってんだ、あのバカは」

〜〜少し前〜〜
我修院「ま、待ちたまえ! 私は暴力は嫌いだ! 紳士として、まずは話し合いで解決しよう!」

開口一番、我修院は命乞いをしてきた。気を削がれたワイは、思わず立ち止まって理由を問うた。

彡(゚)(゚)「あん? なんでや、お前は悪者やろ? ワイは正義のヒーローやろ? 戦う以外にすることないやろ」

我修院「君は誤解している! 私は悪者などではない、しがない食通の紳士だ!」

(´・ω・`)「なに言ってんのさ、男の人達に酷いことさせてたくせに」

我修院「私は彼らをレイプしていない。彼らに何かを命令したことも無い。私は既に『出来上がっていた』彼らの、監視を任されていただけだ」

彡(゚)(゚)「任されてたって、誰にや?」

我修院「野獣先輩だよ」

彡(゚)(゚)「!」

(´・ω・`)「博士の言ってた、悪の親玉だね」

我修院「悪? 親玉? ......君達の言っていることは先程から良く分からんが、とにかく私は彼の命令に従っていただけだ」

彡(゚)(゚)「野獣先輩ってのは、お前らにとっての何なんや?」

我修院「待ちたまえ。君は順序というものを知らんのか? 君の言う敵である私が、君達に今、私の命綱である情報を喋るわけがないだろう」

彡(゚)(゚)「なんやと? てめぇ立場分かっとんのかボコりまくるぞ」

我修院「立場も分かっているし、ボコりまくられたくないから、取引しようと言っているのだよ。私は暴力は苦手なので、降伏すると言っているんだ」

我修院「私はこれから、君達の捕虜となろう。私の知る限りの情報を君達に話すから、君達は私の身の安全を保障してくれ」

彡(゚)(゚)「なんか、ややこしいわ。お前ボコって縛り上げた方が効率ええんとちゃうんか?」

我修院「君は先程、正義の味方を名乗っていただろう。ならば、降伏した相手の取り扱い方ぐらい覚えておきたまえ。紳士さを捨てた蛮族には、正義の看板は荷が重いぞ」

彡(゚)(゚)「いちいち偉そうで腹立つなコイツ」

(´・ω・`)「でも戦わないで済むなら、それに越したことはないんじゃないかな」

我修院「イマイチ不服なようだね。では、君達にも個人的なメリットを捧げよう」

そう言うと、我修院はベンチの傍らに置いてあった小包を、こちらに渡してきた。

彡(゚)(゚)「なんやこれ」

我修院「酒の肴に持ってきた、ただのつまみだ。私には飽き果てた雑穀でしかないがね」

彡(゚)(゚)「ふん! 上から目線も大概にせえよ。お前の残飯なんか要らんわ」

我修院「まぁ、まずは食ってみたまえ。もし私の身を保障してくれたら、そうだな。その残飯など比べ物にもならない美食への道を、私が案内してやろう」

〜〜現在〜〜
『食通の中の食通しか招かれることのない』という店を、最近知人に紹介されてね。と、我修院は言葉を紡いだ。

我修院「新たな美食を期待しては裏切られ、を繰り返した為に、あまり乗り気でなかったのだがね。だが、君らのおかげでもう一度チャレンジする気力が湧いてきたよ。もし君らさえ良ければ、私と一緒に来てみないかい?」

我修院に貰った極上の肉を啄みながら、そんな夢のような話を聞いていると、向こうで変態をボコ殴りにしていた宇野が近付いてきた。

宇野「なに、仲良く談笑しているんですか」

(´・ω・`)「あ、宇野さん。あのね、この人僕らに降参して、捕虜になりたいんだって」

明らかに不機嫌な態度の宇野に向けて、原住民が我修院が捕虜を願い出た旨を伝えた。

宇野「降参? あなたが? ......なにか、狙いでもあるんですか?」

我修院「逆に聞くが、捕虜になるのに『己の身を守りたい』以外の理由がいるのかね?」

宇野「......まぁ、楽に生け捕りに出来るに越したことはありませんね。あなたを車で運ぶに当たって、縄で拘束させてもらいますが構いませんね?」

我修院「極力、紳士的に頼むよ」

宇野「では、早速荷物を積む作業に入りしましょう。原住民さんは権田さんと一緒に、私が倒した人達を車に積んでください。なんJ民さんは、あそこで腰振ってる男をぶん殴って下さい」

彡(゚)(゚)「なんやあれ。なんでアイツだけ倒れてないんや?」

宇野「見覚えはありませんが、アレもあなたや我修院と同じ、概念体みたいです」

彡(゚)(゚)「ほーん。なんか個性が無いというか、こう、オリジナリティに欠ける見た目やなぁ」

(´・ω・`)「同じこと繰り返して言ってるよ、おにいちゃん」

宇野「ちゃっちゃと終わらせて、今日は早く帰りましょう。あんまり濡れる時間が長いと、風邪を引いてしまいます」

そう言う宇野に続いて、小降りになってきた雨の中、ワイらは気絶した野郎共を車に運び始めた。



【ステータス】
我修院
心......知識A 判断力C 精神力B 対人能力B
技......回避E 組手E 間合いD 攻撃手段E
体......腕力E 敏捷性E 持久力D 耐久性D

特殊概念
・飽くなき探求の終着点(グルメ・ターミナス)
この世全ての美味を把握、理解する舌と頭脳。それが我修院の持つ唯一の、そして決して他の追随を許さない絶対の能力である。

ちなみに、
「この世の美味という美味を食べ尽くした」
という我修院の言葉に噓偽りは無いが、しかしそれは真実でもない。何故なら、この世には何万という料理の種類があり、何億という料理人が存在し、一つの料理に対する調味料の加減だけでも、そのバリエーションは何百通りと変化する。
人間の、たかだが数十年の生涯の中で味わい尽くすには、世界に偏在する美味の総量はあまりにも膨大過ぎる。

では、何故彼はこの世の全ての美味を食べ尽くし、その味に飽いているのかというと、それは彼の味覚に問題があった。生涯において、それでも常人の何百倍という美味を味わい続けた彼の味覚と脳は、いつの頃からか重大なバグを抱えるようになったのだ。
そのバグとは、『初めて食したはずの美味を、口に含んだ瞬間に、いつかどこかで食べたものと錯覚してしまう』というデジャヴ現象である。このデジャヴのせいで、我修院は何を食べても既視感を覚え、何を食べても新鮮味を感じない、食通にとって最悪の状況へと陥ってしまった。

美食を求め、食通を極めたからこそ、食を感じる機能に欠陥が生じ、人並みの『美味しい』を喪ってしまった男、我修院。
しかし、彼にもまだ希望はある。彼が把握しているのは、あくまでこの世全ての『美味』である。ならば、一般的にはとても『美味とは呼べない』ものなら、彼の味覚に新しい刺激を与えることが可能かも知れない。
例えば、それは....................................。