十数人を詰め込み、流石にかなり窮屈に思えるワゴン車の後部座席で、私は我修院と対面した。この車は現在、ある料理店へと向かっている。
理由は、なんJ民達のたっての希望と、その店に連れて行くと約束しなければ、決して何も喋らないという条件を出されたからだ。
私はテープレコーダーのスイッチを入れ、縄で拘束した我修院へと質問を始める。

宇野「では我修院、あなたの知っている情報を教えてもらいましょうか」

我修院「質問がアバウト過ぎるね。インタビューというものは、聞き手が何を知りたいかを明示しなければ話にならないぞ」

宇野「んなこたぁ分かってます。順を追って聞きますが、まずはあなたの所属を」

我修院「自由気ままなフリーの食通......と言いたいところだがね。現在の私は、『ホモ・アルカディア』と名乗る組織に所属している」

宇野「ホモ・アルカディア? ホモの方は、どうせあっちの意味でしょうが、その後のアルカディアというのは......」

我修院「古代ギリシアの時代に実在したとされる、理想郷の名前だな。ホモ・アルカディアという名前は、『同性愛者の理想郷』という意味で付けたらしい」

宇野「理想郷というと、ユートピアの方が馴染み深いと思いますがね。では、ホモ・アルカディアのリーダーというのは」

我修院「田所浩二......君達には、野獣先輩の呼び名が馴染み深いようだね。我々は、彼の元に集まり、彼の命令で動いている」

宇野「我々というのは?」

我修院「基本は、同性愛者の集まりだ。私は違うがね。みんな野獣先輩に集められた、という点以外では、個々の特徴が強すぎて特に共通点は無い」

宇野「ホモ......面倒臭いのでアルカディアと呼びます。アルカディア、そして野獣先輩の目的は何ですか? あなた方は彼の目的を知っているんですか?」

我修院「真意、という意味なら全く知らん。だが、彼はいつも我々に、『俺は同性愛者を救う為に戦っている』と公言しているな」

宇野「では、あなた方は彼の思想に共鳴して、彼に従っているということですか」

我修院「もちろん、中にはそういう者もいる。だが私から見れば、大半の連中はただ、欲望を発散する場所を求めているだけに思えるね」

宇野「自分はどちらとも違う、といった口ぶりですね。では、あなたが野獣先輩に従う理由は何ですか?」

我修院「分からん」

宇野「は?」

我修院「分からんのだよ。私は、気付いたら彼の部下になっていたのだ。部下になる直前のことは、イマイチ覚えていない」

宇野「......直前のことを覚えていない、ですか。なら、彼の部下になる以前のあなたの人生は、どのようなものだったんですか?」

我修院「今と変わらず、美食の道を探求していたよ」

宇野(......あくまで、『我修院としての人生』の記憶しか持っていない、ということか)

......野獣先輩サイドの、概念体。彼らがどういう手段で、どこからやってきた存在なのかを、我々はまだ知らない。
彼らがどの段階で概念体になったのか。概念体になる以前は、かつてホモビに出演した役者、生身の人間だったのか。それとも、あるいは役者とは無関係に、無から生み出されたまったく新しい命なのか。
我修院に自覚が無い以上、私に過程を探る術はない。それはcoat博士の領分だ。ならば私は、せめて今の状態だけでも把握しなければ。

宇野「ではあなたは、意志を持って彼の部下になったわけではないのですね。しかし食通のあなたには、特に野獣先輩に従う理由は無いでしょう」

我修院「従う理由なら、あるさ。......良いことを教えよう。我々は今、世田谷区の外には決して出れない。何故だか分かるかね?」

宇野「そうなんですか? いえ、さっぱりです」

我修院「大半の者はまだ気付いておらんが、我々は見張られているのだよ。野獣先輩の片腕、始まりのホモによってね」

宇野「始まりのホモ、ですか。どんな奴なんですか?」

我修院「常に黒いフードを被った、顔も分からん不気味な男だよ。野獣先輩が理想と、性欲を発散するハッテン場を提供してくれるアメなら、始まりのホモはムチの役割を持った男だ」

「あれは、まだ私が野獣先輩の部下になったばかりの頃だ」と、我修院は語り始める。

我修院には当初、TKGWという食通の仲間がいた。我修院を含む野獣先輩の部下は、「今は自由に行動してくれて構わん。だが、世田谷区の外には決して出るな」という指示を受けていた。
しかし我修院とTKGWら食通を極めんとする者にとって、世田谷区以外での食事の禁止というのは、1日2日だけでも苦行であった。
同性愛者の人権にも、ホモSEXにも興味は無く、野獣先輩に従う忠誠心も無かった二人は、ある日脱走を図った。
二人には、脱走、という意識もあまり無かった。監視も警備も無い状態だったので、危機感を感じなかったという。渋谷区へ向かう二人の頭には、次に食す美味の事しか無かった。しかし、

TKGW「我修院さん! ホラ早く早く! こんな三流グルメだらけの町を出て、本物の美食を堪能しマ°ッッ!!!」

意気揚々と歩き、遂に渋谷区との境目に差し掛かった瞬間。5m先を歩いていたTKGWの頭が吹き飛んだ。首の上のものがフッと消えたと思うと、数瞬後に頭があった場所へと血が噴出した。そして数秒後には、TKGWの首から下は前のめりに倒れ、血を地面に撒き散らし、小刻みに痙攣を起こしていたという。

我修院「......驚愕する、とは正にあのことだ。数秒前まで共に喋り、共に笑い、共に歩んでいた者が、突然無惨な死骸に成り果てる。悲しいとか怖いとかいう以前に、思考が追いついて来なかったよ」

宇野「まぁ、そうですよね。よく分かりますよ」

我修院「訳も分からずTKGWくんの死体を凝視していると、あの男が目の前に現れて、私にこう言った。『駄目だよ、世田谷区の外に出ちゃ。田所さんとの約束を破っちゃ駄目じゃない』 『この子は境界線を越えちゃったけど、君はギリギリセーフだよ。今度からは気をつけてね』と」

我修院「おそらく彼は、見せしめとしてTKGWくんを殺したのだろう。そして私は、見せしめの証人として見逃された。......TKGWくんと私の位置が逆だったら、殺されていたのは私だったのだ。あまりの恐怖に、2日間食事が喉を通らなかったよ」

宇野「......その始まりのホモは、どうやってTKGWの頭を吹き飛ばしたのでしょうか」

我修院「さっぱり分からんよ。だがあの時、左側の道の塀に、盛大な血の跡が着いていたのを覚えている。あれはきっと、潰れたTKGWくんの頭だったのだろう」

宇野「映画スキャナーズのような、『超能力で頭がパーン!』ではなくて、何らかの凄まじい圧力が、TKGWの側頭部から襲ったということですね」

我修院「どうだろうね、分からんよ。もっと言ってしまえば、始まりのホモがずっと私達の跡をつけていたのかも知れんし、もしかしたら境界を越えた瞬間に瞬間移動の様なことをしたのかも知れん。あの男に関しては、分からないことが多過ぎて怖くてたまらん」

我修院「とにかく、始まりのホモの監視があって、我々は世田谷区の外には出れない。だが、ただ黙って野獣先輩に従っていれば安全は保証され、しかもオイシイ思いにありつける。わざわざ彼の元を離れようとする者は、少なくとも今はいないよ」

宇野「では、あなた方は世田谷区の中で何をしているんですか」

我修院「割り振られた担当地域に居を構えて、好き放題やっているよ。大半の連中は、一般男性のレイプに興じているようだね。私のように同性に興味の無い男は、先ほど君が見たような監視員をやっている」

宇野「割り振られた地区、ですか。他の仲間の居場所は?」

我修院「悪いが私は、野蛮人との交流は浅くてね。教えられるのは一人だけだ」

そう言うと、我修院は『中野オリジナル』なる店の名前と、その住所を口にした。中野くんという男とは、料理人と食通の関係から、何度か会話をしたことがあるという。

宇野「いいんですか? 真っ先に仲の良い仲間を売ってしまって」

我修院「別に親しい間柄ではない。彼の料理を食えば君も分かるだろうが、私は彼が死んだとしても、欠片も惜しいとは思わんよ」

宇野「.........。」

大して期待していなかった、他の概念体の居場所まで分かった所で。私は頭の中で、我修院から得た情報を整理してみる。
①野獣先輩は仲間を集め、組織を作っていた。組織の名前はホモ・アルカディア。
②野獣先輩の仲間は概念体であり、何らかの方法で増やしているようだ。数は不明だが、今の所数十人程度と想定しておく。
③ホモ・アルカディアは世田谷区内でのみ活動し、精神レイプ被害者を増やしている。その目的は不明。
④概念体の記憶、性格はホモビの内容や設定に準拠している。
⑤概念体も大きなダメージを受けると死ぬ。野獣先輩の片腕、始まりのホモは、概念体を殺めるだけの力を持ち、世田谷区の外に出ようとする仲間を粛清している。

他に聞き出せることはないかと、更に口を開きかけた時。車のスピードが急に緩み、数秒の後に停止した。どうやら、我修院の目的地に着いたようだ。

我修院「む。着いたようだね」

彡(゚)(゚)「わーいわーい! 美食の店や! グルメの店や! 今日からワイもセレブの仲間入りや!!」

(´・ω・`)「楽しみだね楽しみだね! 我修院さんのおつまみであんなに美味しかったんだもん! きっと、とんでもなく美味しいお店だよ!」

彡(^)(^)「分かりきってることを声高に叫ぶな原ちゃん! そんなん当たり前やんか!」

(´^ω^ `)「あ、そっかぁ。ウフフ」

彡(^)(^)「そうやでぇ。アハハ」

車外に飛び出した二人が、『H.Nレストラン』という看板の店の前で、楽しそうにはしゃいでいる。
私は車窓を開け、浮かれた二人の水を差した。

宇野「お喜びのところ申し訳ありませんが、原住民さんは車内に戻ってきてください」

(´・ω・`)「えっ、なんで?」

宇野「我修院さんから、概念体がいるというもう一つの店を紹介されました。私一人じゃ捕まえられないかも知れないので、私と一緒について来てください」

(´・ω・`)「そ、そんな! そんなの、ここでご飯食べた後でもいいじゃない!」

宇野「急ぎなんです。ワガママ言って困らせないでください。coat博士に言いつけますよ」

(´・ω・`)「そ、それは! う、うぅぅ......でも、でも......」

彡(゚)(゚)「......あー、ウジウジすんなや原住民。ちゃんとお前のお土産も貰ってきてやるから、それで我慢せえや」

(´・ω・`)「うぅ......。わ、分かったよ......(楽しみだったのに、レストラン)」

宇野「私達はだいたい2時間後に、またこの店の前に迎えに来ます。なんJ民さんは存分に、レストランでの食事を楽しんでください」

彡(゚)(゚)「おう、気が利くやんか。もちろんそうさせてもらうで」

我修院「話はまとまったかね? まぁ、ちびっこ君もそう気落ちするな。美食の道には幸運が必要だが、今回の君には、それが無かっただけのことさ」

ではそろそろ行こうかね、と我修院がなんJ民に声をかけると、二人はレストランの中へと消えていった。
残された原住民は、とぼとぼと車内へと戻り、私の隣に座って泣きべそをかき始めた。

(´・ω・`)「うぅ......レストラン......美味しいご飯......食べたかったなぁ」

宇野「権田さん。これが中野オリジナルの住所です。私達をここに下ろしたら、一度防衛省に戻って『荷下ろし』をお願いします」

権田「承りました。......そうですね、宇野さん達の元に迎えに来るまでに、1時間くらいかかりますかね」

(´・ω・`)「なんで僕ばっかり......おにいちゃんだけズルいよ、不公平だよこんなの」

宇野「急がないので構いません。それと、権田さんは確か、シャワー室付きの車を持ってましたよね。送り迎えの時は、あの車でお願いします。それと汚れると思うので、全席にシーツを敷きましょう」

権田「構いませんが......なんでまた、そのようなことを?」

宇野「多分、凄く汚れるからです。......原住民さんは、あのレストランに入れなくて不幸だ、と思っていますね?」

(´・ω・`)「グスッ......え? う、うん。そりゃそうだよ」

宇野「逆ですよ、原住民さん。あなたは命拾いしたんです。なんJ民さんは先ほど、天国と履き違えて地獄へと足を踏み入れました」

(´・ω・`)「え? え? 意味分かんないよ宇野さん」

目で見た方が早いなと思った私は、タブレットを取り出してあるワードを打ち込み、原住民に渡してやる。

宇野「先ほどのレストランの外観で確信しました。敵の概念体は、ほぼほぼホモビの登場人物と同一人物です。それ故彼らの行動は、基本的に出演したビデオの内容に準拠します」

宇野「そして、我修院という人物が出演した作品が、今そのタブレットに表示されているものです」

(´・ω・`)「え、なにこれは(ドン引き)」

宇野「あのレストランの店主も、おそらく概念体でしょう。そしてこれからあの場所では、その記事や画像と同じ内容が行われます」

宇野「我修院が出演したホモビは『糞喰漢』という、最低最悪のスカトロ企画です」