夕刻。三人の男が、糞尿レストランへ足を運んでいた。

KBTIT「ったくよぉ、懐かしいなぁ、まひろ。元気しっ、しってかなぁ〜」

平野源五郎「いやいや、まひろ君もそうだが、私が少年奴隷の件で世話したじゅんぺい君も楽しみだぞ」

虐待おじさん「今じゃ立派に俺らの調教師後継者だからなぁ。後継者としてはもう、OK? OK牧場?」

KBTIT&平野源五郎「「......さぁ、着いたぞ」」

虐待おじさん「俺の話聞くっつって聞かないだろさっきから! さっきから聞かないだろぉ!」

薄暗い店内へと、三人が足を踏み入れる。しかし三人を待っていたのは、懐かしい顔馴染みの顔でも、立派に成長した男の姿ではなかった。

KBTIT「なんだよこれおい!」

店中に塗りたくられ、飛び散った糞尿の跡と、その癖になる強烈な臭い。そして、大量の血と、微かな精液の臭いのする異様な空間に、三人の男が倒れていた。

KBTIT「こいつは知らない奴だなぁ、なんだこのブサイク!」

平野源五郎「おい!おい! 大丈夫かじゅんぺい!」

虐待おじさん「そっちがじゅんぺい......じゃあ、こいつが、まひろか......?」

信じられない、と虐待おじさんは息を飲む。おそらくまひろと思われる人物の頭部は......いったい何度殴打すればこうなるのか......まったく原型を留めていなかった。『それ』が首から上の部分のものでなければ、血まみれのひしゃげた形から眼球が飛び出していなければ、彼は決して、『それ』を人間の頭部だったものとは信じなかっただろう。誰の目から見ても、死因は撲殺によるものだった。

平野源五郎「じゅんぺい! おい! 手を動かせ! 私を楽しませるんだろう!?」

虐待おじさん「おじさんなんて言った? ......。気持ちよく出来ましたか?............。......できてないでしょ?(小声) ......じゃあホラ戻って来いよホラァ! まひろぉ!!」

二人が悲鳴のように喚き散らすも、横たわる店員達はピクリとも動かない。それを見ながら、我修院の遺体を確認したKBTITは、あることに思い至った。
横たわる三人の遺体には、ある共通点があった。それは、三人共尻の穴を無防備に開帳し、その穴から精液を滴らせている点であった。

つまり、この三人はある男によって、プレイ中に殺されたのだ。

KBTIT「もう許せるぞオイ!許さねぇからなぁ〜!!」

怒りを露わに、KBTITは叫んだ。正体不明の犯人は、自分達の旧知の友を殺しただけに飽き足らず、SMプレイの禁忌を犯したのだ。
SMプレイの禁忌とは、即ち殺傷行為だ。『限界を超えた苦痛と快楽を与えるべし。しかし、決して傷を残すべからず』が、調教師界隈における暗黙の了解だ。
禁忌を犯し、友を殺した謎の調教師が、今ものうのうと生きているという事実は、彼らにとって耐えがたい屈辱であった。

KBTIT「ホントはこんな風にされて殺されたいんだろお前もよぉ!?」

虐待おじさん「本気で怒らせちゃったね〜、俺のことねー? おじさんのこと本気で怒らせちゃったねぇ!」

平野源五郎「けしからん 私が喝を 入れてやる」

三人の調教師が、報復の声明を張り上げる。その怒りは当然、未だ顔も名も分からぬ殺人犯へと向けられていた。


〜〜夜、防衛省・coat博士の研究室〜〜

coat博士「......で、今回の収穫はその中野くん、というのと」

宇野「店内にいたクレーマー二人ですね」

coat博士「あいつとは別れて行動していたんだろ? よく君と原住民だけで捕まえられたな」

宇野「戦闘能力がほぼ0でしたからね。きゅうり神を無理矢理口に突っ込んで、爆発させれば済みました」

coat博士「ずいぶん過激だな」

宇野「何の調理も施していないスーパーの特売肉を、高級グルメと言い張る輩でしたからね。容赦はしませんでした」

coat博士「まぁ、私はなんでも構わないがね。......それより、君が我修院から聞き出した情報は、非常に貴重なものだ。ありがとう」

宇野「......同性愛者の理想郷、ホモ・アルカディア。彼らの目的はなんでしょうか」

coat博士「その名の通り、彼らは理想郷が欲しいんだろ。それが実現可能かどうか、どんな手段によるものかは分からんがな」

宇野「手段、ですか」

coat博士「ふむ......そうだなぁ。時に聞くが、君は彼氏はいるか?」

宇野「は?」

coat博士「彼氏だよ、異性の恋人だ」

宇野「いませんね。それがどうかしましたか?」

coat博士「では君には現在、結婚したいという願望はあるかね?」

宇野「全く、ありませんね」

coat博士「なるほど、君は男に興味が無いんだな。では、君は同性愛者のレズビアン、ということでいいんだね?」

宇野「......喧嘩売っているんですか?」

coat博士「ほら、それだ。君は今、私に同性愛者の疑いをかけられ、それを『喧嘩を売られている』と考えた。同性愛者と認知されることが、異端として世間体を悪くすると考えている証拠だ」

宇野「いや、勝手に性癖を決めつけられたら、怒るのは当然でしょう。ただのセクハラでしたし」

coat博士「例えば『君はイケメンが好きだ』と性癖を決めつけられたとして、君は今と全く同じ感情を抱いたかね?」

宇野「.........。」

coat博士「要はそういうことだ。現代社会がいかに人間皆平等、差別反対、と謳うようになっても。公の場の人々が、差別は良くないよね、と口を揃えて語ろうとも。人間はそう美しい生き物にはなれん」

coat博士「多数派に属する者はいつも、少数派を叩いて安心を得ようとする。それが分かっているから、人間は少数派......世間から見た異端になることを過敏に恐れる。同性愛者の烙印を押されかけた君の反応が、大多数の人間の素直な気持ちだ」

宇野「しかし、同性愛者の人権というものは......」

coat博士「70年代の、ハーヴィー・ミルク※の登場以降、確かに同性愛者の市民権は強まった。が、だからといって偏見が完全に消えたわけではない。『同性愛者は自分達とは違う』という視線を今一番強く感じているのは、他ならぬ同性愛者達だろう」

※アメリカ合衆国の政治家、ゲイの権利活動家。同性愛者の市民権獲得に向け、意欲的に活動を行うも、78年に志半ばで暗殺される。99年には「タイム誌が選ぶ20世紀の100人の英雄」の一人に選出された。

coat博士「人間社会の性質上、世間の目というのは絶大な影響力を持ち、多大なストレスを生む。その目から逃れたい、というのが、とりあえず思いつく彼らの目的だな」

宇野「しかし自分が間違っていないと思うのなら、世間の目など気にせず、堂々と公言すればいいのでは?」

coat博士「そんな強い意志を持った人間など稀だ。例えば異性の恋人のいない状態で、百人から『お前は同性愛者だ』と言われるとな、本当に自分が同性愛者だと思うようになるのだよ。自らが持つ自分像や、信念、信条、主義は、それを支えるだけの証拠が無ければ非常に脆い。これらは外部からの圧力によって、容易く変化する」

coat博士「ストレス(外部からの世間の目)から『私が思う私の在り方』を守る為には、同じ思想の者と結託し、団結する必要がある。そして、さらにストレスから完全に解放される手段は、
①閉鎖的な環境に篭り、外部との接触を絶つ
②同じ思想の人間を増やし、取り込み、拡大し、最終的に自分達が多数派になることを目指す
③思想の異なる外敵を根絶やしにする
の三つの内のどれかだ」

宇野「だとすると、ホモ・アルカディアの手段とは」

coat博士「おそらく①と②の複合型だな。野獣先輩は仲間達に一般人を襲わせ、精神レイプ被害者という、擬似的な同性愛者を増やしている。世田谷区という、限られた地域の中でな」

宇野「世田谷区を、『同性愛者が多数派』の場所へと塗り替え、閉鎖的な理想郷を作ろうということですか」

coat博士「それで済むのなら、まだ軽いんだがな......今日のネットのニュースはチェックしたか? 今、結構な祭りになっているそうだぞ」

宇野「いえ、知りませんね」

coat博士「2ちゃんねるは、TVと違って放送コードが無いからな。過激な話題、下品な話題ほど盛り上がるものだが.........『世田谷区の公園で、ホモが野外SEXしてるの発見した』という内容のスレが乱立していたらしい。まとめサイトでも、ホモの話題で持ちきりだ」

宇野「まとめサイトにもってことは、一般人にも認知されやすい、ということですよね」

coat博士「おそらく、ホモ・アルカディアは自分達の存在を隠す気がない。それどころか、むしろ認知を広めたがっている気配すら感じる」

coat博士「こちらも、急がなければな。で、肝心のあいつの様子はどうだ?」

宇野「相変わらずですね。原住民がいくら話しかけても、ロクに返事もせずに虚空を見つめているようです」

なんJ民を迎えに行った時、私がレストランの中で見た光景は、惨劇の跡であった。
撒き散らされた血と糞尿。倒された概念体の残骸。その空間の中央に呆然と立った、血と糞尿と微かな精液を身体にこびりついたなんJ民を見た時、私も殺されるかと一瞬恐怖した。

coat博士「......そうか。まぁ、しばらく安静にして、回復するのを待つしかないだろうな」

博士の言葉と共に、今日の事後報告はお開きとなった。

〜〜深夜。防衛省・coat博士の研究室〜〜

coat博士「......ん〜、もう二時か。そろそろ私も寝るかな。夜更かしは美容に悪いしな」

ガチャ、バタン。

彡(•)(•)「......。」

coat博士「ん? どうした、バカ息子。眠れんのか?」

彡(•)(•)「.........。」

coat博士「......せめて、何か喋れ。言葉を無理にまとめようとしなくていい。意味を汲み取るくらいのことは、私にも出来るから」

彡(•)(•)「.........ワイな、楽しみにしてたんや。美味い飯食えるって聞いてたから」

coat博士「うん」

彡(•)(•)「でも、出てきたのは、糞だったんや。嫌で嫌で仕方ないのに、糞を無理矢理、食わされた。糞だけやない。普通の食い物にも糞をぶちまけて、食わされたんや。そんで、酷い罵倒も喰らったんや」

coat博士「うん」

彡(•)(•)「そんで、糞を身体にもぶちまけられて、蝿と蛆が身体にたかって、臭いも酷くて、ワイはそこでブチ切れた」

彡(•)(•)「ワイは、あの時酷い目に合っただけやなくて、何かを奪われたんや。その奪われたもんを取り返したくて、奴らに色々やった。とりあえず糞を店員共の身体に塗りたくって、口ん中に糞を捩じ込んでやった。ワイと同じように」

coat博士「うん」

彡(•)(•)「それだけじゃ収まらなくて、レイプもしてやった。エネルギーを奪えるっていうから、奴らから何かを奪ってやりたかったんや。これは、店員だけやなくて我修院にもしてやった。ワイをあんなとこに放り込んだあいつにも、責任があるからや」

彡(•)(•)「それでも足らんくて、特に酷く罵倒してきた店員をボコり殺した。けど、戻ってこないんや。あの糞料理屋に入る前のワイに、どうしても戻れないんや」

coat博士「.........。」

彡(•)(•)「ババア、教えてくれ。ワイは、いったい何を奪われたんや? 何をすれば元に戻れる? ずっと、頑張ってみたけど、飯が喉を通らんのや。笑えないんや。楽しくないんや。明るいことが、なんにも考えられんのや」

coat博士「......お前が奪われたのは、そうだな。一言で言えば『尊厳』だ」

彡(•)(•)「尊厳?」

coat博士「もちろん、糞を喰わされたことも重大なショックだったろう。だがそれよりも、お前はその店で自由を制限され、望まないものを無理矢理押し付けられた。人としての最低限を大きく下回る扱いを受け、陵辱された」

coat博士「レイプされた女性が、例え妊娠せずとも、人生が狂う程のショックを受けるのと同じだ。慰み者にされ、一時的に人間以下の扱いを受けた傷というのは、見た目以上に深刻なものだ」

彡(•)(•)「......どうすればいいんや?」

coat博士「尊厳を傷付けた相手への報復、が真っ先に挙げられるな。『目には心臓を、歯には指を』、自分が与えられた以上の喪失を相手に与えることだ」

coat博士「復讐は虚しいだけ、なんて的外れな言葉をよく耳にするが、決してそんなことは無い。復讐にはある程度心を慰める効果がある。報復を果たせば、人生における一つの区切りにもなるし、『自分を苦しめた奴が、どこかでのうのうと生きているかも知れない』と思って生きるより、幾分か心も救われる」

彡(•)(•)「やり返す、ってことなら、もうやってもうたぞ」

coat博士「報復で気が済まなければ、喪ったものに代わる何かを見つけることだな。『自分にはこれが無いが、代わりにこれがある』と思える何かがあれば、傷つけられた尊厳も、時が経てば癒えるだろう」

彡(•)(•)「ワイに、あるもの......」

coat博士「そうだなぁ......慰めになるか分からんが、そういえばお前に渡す物があったな」

そう言うと、ババアは机の引き出しから何かを取り出し、渡してみせた。それは、額の中に納められた、白い花弁の押し花であった。

彡(•)(•)「これは......」

coat博士「以前、お前が助けた男子高校生の妹から貰った花だ。ありのままの状態で放っておくと、すぐに枯れて駄目になるからな。押し花に加工しておいた」

彡(゚)(゚)「.........。」

coat博士「その押し花は、お前が誰かを救った証だ。お前が、誰かにとってのヒーローとなり、感謝を受けたという証だ」

彡(゚)(゚)「......うっ」

coat博士「お前は、みじめなんかじゃない。哀れな被害者なんかじゃない。お前は立派にヒーローをやっているよ。......だから、まぁ、そうだな」

そこで一旦言葉を切ると、ババアは椅子から立ち上がり、身長差のあるワイの頭をガシと掴む。そしてそのまま椅子へと座り直すと、頭を抱えられたワイは膝立ちで、ババアの膝の上にもたれる姿勢となった。

coat博士「辛いことがあったら、親に甘えればいいんだよ。図体がいくらデカくても、お前はまだ、生後2ヶ月の子供なんだから」

なだめるように言うと、ババアがワイの頭を優しく撫でた。その労わりが、慈しみのある声色が、なんだか妙に心に響いて。

彡(;)(;)「うあああ、あああっ!」

堰が、切れた。感情の濁流が溢れて、溢れて、止まらない。ババアが相手なのに、後になって恥ずかしくなるのは分かりきっているのに、ワイはババアの太腿に顔を埋め、思い切り泣いた。

彡(;)(;)「わあああああん! わああああああん!」

coat博士「よしよし。辛かったな、怖かったな。もう大丈夫だぞ。ここには敵はいないから。お前はちゃんと、ここに帰ってきたから」

彡(;)(;)「うわぁぁぁぁぁ! びぇぇぇぇぇぇ!」

coat博士「怖くない、怖くない。大丈夫、大丈夫」

頭を撫でながら、あやすようにババアが囁く。
今朝、雨に濡れながら、大泣きして車道を歩いていた女子高生も、こんな気持ちだったのだろうか。もしそうなら、ワイはあの女に謝るべきかも知れない。
「公共の場で泣くような女に、ロクな奴はいない」
あの時ワイはそう言ったが、なるほど。公共の場だろうと、ババアの前だろうと、確かにこの感情の昂りはどうしようも無い。

その後、ワイは寝落ちするまでのしばらくの間、ババアの膝の上で大泣きし続けた。

〜〜〜〜
(´・ω・`)「ふーぅ。寝る前にきゅうりを10本、は食べ過ぎたかな。深夜なのに、お手洗いに行きたくて起きちゃったよ」

(´・ω・`)「こういう時って、なかなか寝つけない上に、かといって起きているのも眠いから辛いよねぇ。......ん?」

(´・ω・`)「なにか音がする。博士の研究室からだ」

彡(;)(;)『わあああああん! わああああああん!』

(´・ω・`)(この声は......おにいちゃんの......そっか)

(´・ω・`)(おにいちゃんは、博士の所に相談しに行ったんだ。そして、博士に慰めてもらって、きっと博士の胸を借りて泣いているんだ)

(´・ω・`)「そっか。博士に甘えさせてもらってるんだ、おにいちゃん」

(´・ω・`)「.........いいなぁ」

(´・ω・`)(......ハッ! 僕は、何を考えているんだよ。おにいちゃんはあんなウンコまみれで、苦しくて辛い思いをしてきたんぞ?)

(´・ω・`)(ちょっと博士に甘えるぐらい、許されて当然じゃないか。そのぐらい、報われたっていいはずじゃないか)

(´・ω・`)(生っぽいステーキを食べて、きゅうり神を出してただけの僕なんかと違って......)

(´・ω・`)「ああ、でもやっぱり......羨ましいなぁ............僕も.........」

(´-ω - `)「僕も.........。」

(´; ω ; `)「.........。」

(´; ω ; `)「寝よう.........きっと今は、深夜で頭が変になってるんだ。寝て、起きたら、もう良くないことなんて考えなくて、すぐに忘れちゃってるはずだ」

(´; ω ; `)「だから、だからはやく、はやくお布団の中へ」

そう言うと、原住民は研究室の扉から足早に去っていった。彼の胸中を、彼が扉の前に立っていたことを、この時のなんJ民とcoat博士は当然知る由も無かった。


......そして、原住民が去ったのとほとんど同時の、日本時間午前3時34分のこと。日本の、そして世界の各報道局に、衝撃的なニュースがもたらされた。

『日本発、中東のプエルトルコ共和国※行きの飛行機が、原因不明の墜落事故を起こした。墜落場所は、プエルトルコ共和国への経由国であるローレンスアラビア※域内の、アッシリヤ※との国境付近であった。
機体は、ANAL航空893便。搭乗者はキャビンアテンダント及び補助担当乗員11名、交代要員を含めた操縦士が4名、乗客が514名と確認されている。搭乗者の大部分は、日本人であったとされる。
搭乗者の生存はほぼ絶望的であり、現在は『テロリスト国家アッシリヤ』との関連性を疑いながら、原因の究明を急いでいる状態である。続報を待つべし』 by各国の報道機関、ローレンスアラビア支部より

死亡者数、526名。生存者、0名。この記録は、ANAL航空開業以来未曾有の、日本航空史上最悪の墜落事故であった。
この事件は後に、『ANAL航空893便墜落事件』と呼ばれ、世界の航空史と日本現代史に深く名を刻むこととなる。

※記載された国名はフィクションであり、実在する国とは一切関係ありません。