〜田所商事 営業部 第二課〜

原「遅い、遅すぎる。深山君はなにをやっているんだ」

朝8時、空きデスクばかり目立つ、営業部第二課の一室で。ブラインドを閉め、電気も点けていない薄暗い空間に、原課長と、部下の三好の二人のみがいた。就業時間より1時間前であり、社内に人気はほとんど無い。
原は、いつにも増して不機嫌であった。朝からあまりにも嫌なニュースを見たことと、それを気にしているどころでは無いピンチにあること。そして、そのピンチを作った張本人が一向に現れないことが原因である。

三好「仕方ないですよぉー、就業時間の90分前に集合しろって、部下を酷使し過ぎですもん」

女性社員の三好が、間の抜けた声で言葉を返す。原の顔にカッと赤みが差す。

原「君達が! プレゼンの!資料を完成させてないからだろうが! あと2日しかないのに! だから今、こうやって時間を作ってやったんだろうが!」

怒声を吐きながら、原はデスクをドンと叩いた。しかし、怒声にも大きな音にも動じることなく、三好は堂々と欠伸をかました。

三好「だってぇ、私の仕事って、深山クンのお手伝いじゃないですかぁ」

三好「主役の深山クン自身がそもそもお仕事してなかったらぁ、サポート役の私の仕事って0に等しいじゃないですかぁ」

髪をポリポリと掻きながら、三好が言う。あまりに無責任で呑気な態度に、原の怒気がますます高まる。

原「いくらでも、仕事はあっただろ! 深山君に作業を進めるよう促したり、間に合いそうにない事を私に報告したりさぁ! 君は、するべき事をまるでやっていないじゃないか!」

三好「報告なら、したじゃないですかぁ。『間に合いそうになくて、ヤバいかも』って」

原「本当に間に合わなくなってから言うなよ......ほとんど事後報告じゃないか......」

ガクリ、と原は肩を落とした。今日、こんな早朝に原が出社したのは、未だ完成していない、新商品のプレゼンの為であった。
原から見た深山という男は、それ程優秀というわけではないが、決して無能な人間では無かった。三好と同じで、入社してまだ二年目だが、三好と違って率先して物事を行う意欲を度々見せていたし、与えられた仕事もそこそここなす男であった。
だから、そろそろ企画の一つや二つ、任せてみてもいいかなと。そう思って『新商品をいかに売り出すか』のプレゼンを任せた結果が、今日の『未完成』の現状だった。そして、肝心の深山君は未だ姿を現さない。

原「頭が痛くなってきた。三好君、お茶を入れてきてくれ」

三好「はーい」

企画の進捗について、原は度々深山に確認した。が、その度に深山は「俺を信じて、待っててください!」だの、「企画の概要だけ説明しますと......」と言って、肝心の内容を明かすことは避けた。
原は、一度任せたのだし、信じて待つしかないかと。困ったことがあったら、自分から相談しにくるだろうと。企画に失敗しても、俺がフォローしてやればなんとかなるかと、そう高をくくっていた。
だが、まさか、あれだけ大口を叩いておいて。企画の進行の段取りどころか、内容すら未だ定まっていないとは、原は想像だにしていなかった。

原「アメージング......何故だ。なぜ私に相談しなかったのだ。なぜ手遅れになるまで放っておいたのだ深山君」

企画が出来なかった責任は、もちろん任せた原が問われることになるが、一番困るのは深山のはずだ。連絡もよこさず遅刻している今日も含めた、一連の深山の行動が、原にはあまりに不可解であった。

三好「あ〜、それなら簡単な話ですよぉ。原さんが学生の時、いっつもテストの点数悪い子とかいたでしょう? それと同じですぅ」

原「......いや、意味が分からないぞ三好君」

三好「学校のテストってぇ、基本授業でやったこと覚えるだけじゃないですかぁ。ノート取って、毎日30分でも復習して、そうでなくとも徹夜で勉強すれば赤点なんて取らないはずなんですぅ」

三好「でも、私みたいに赤点貰っちゃう子って減らないんですよぉ。だって勉強って、苦しいじゃないですか。やらなきゃいけないことって、やりたくなくなるじゃないですかぁ。その後に大変な事が待ってるって、薄々分かってはいるんですけど、とりあえずそれは考えないようにして、今ある嫌なことから逃げちゃうんですぅ」

原「......言いたいことは分かるが、深山君は君と違って、今まで真面目に仕事をしてきた男だぞ。それに、辛くて嫌なら私に言えばいいじゃないか。こんなことになるくらいなら、私がいくらも代わってやったのに」

三好「良い子のフリをしてただけですよぉ。初めて任された企画の責任が重くて、自分の頭でやる作業が辛くて、逃げちゃったんですねぇ。原さんに言わなかったのは、赤点のテストをパパに見られたく無かったんでしょうねぇ」

原「......なんなんだ、最近の若い奴らは。みんなこうなのか」

三好「世代は関係ないですよぉ。原さんが引いた私達が、たまたまハズレくじだっただけですぅ」

原「たまたまで済むか、馬鹿たれ。君はもっと自分に誇りを持てる努力をしろ。茶はどうしたんだ」

三好「ポットの中が空だったんでぇ、代わりにレッドブル持ってきましたぁ」

原「沸かせよ、茶ぐらい! そんなこと面倒くさがるなよ! 乾いた喉を潤したいのに、なんで炭酸飲料持ってくんだよ!」

三好「時間外労働ですし、私の職業はお茶汲み係じゃないですぅ。無理強いするとパワハラで訴えますよ」

原「ロクに仕事もしないくせに権利ばかり主張するんじゃない!」

三好「この前の飲み会で課長についたあだ名、知ってます? パワ原クンポケットですよ。ヤバいですよねぇ」

原「あだ名以前に、飲み会があったことすら知らんぞ!? 誘えよっ、私も! 私が一番ハラスメント受けてるじゃないか!」

三好「飲み会に上司がいると、エンジョイ出来ないじゃないですか。ささ、些細な話は置いといて、景気付けに翼授かっちゃいましょう」

原「景気もクソもないよ......。グビッ......ンンッ、沁みる! 乾いた私の喉を、炭酸の刺激が責め立てるぞ! 辛いぞ三好君っ、私が君に何をした!?」

三好「翼と言えば、名曲の中の天使の扱いって結構酷いですよねぇ。『翼の折れた天使』だったり、『残酷な天使』呼ばわりされたり、『背中の羽根は失くしたけれど不思議な力持ってる堕天使』にされたり」

原「自由か! 君に労わりのこころは無いのか三好君! 思考がフリーダム過ぎるぞ!」

三好「ああ、あと、翼といえば......」

原「ハァ......ハァ......今度はなんだね」

三好「深山クン、奥さんと一緒に、外国に逃げちゃったかも知れませんねぇ」

原「.........は?」

三好「この前の飲み会で言ってたんですよ。深山クンの奥さんが、友達と海外旅行の計画立ててるから、自分も行きたいって愚痴をこぼしてたんですぅ。場所は、なんだっけ、『震える通る子』とかって言ってましたー」

原「な、なんだと......? で、では、それは、出発する日は、いつと言っていたんだ?」

三好「確か昨日の夜だったと思いますぅ。もしかしたら、その飛行機に深山クンも潜り込んで、高飛びしてるかもなぁ、なんて」

原「......なぜ、それをもっと早く言わない!!」

三好「ひゃえぇ!? な、なんですか急に、マジ切れは怖いですよぉ!」

原「うるさい! 国名はプエルトルコ共和国だ馬鹿たれ! 君は今朝の号外を読んでいないのかっ?」

三好「あぇぇ? わ、私新聞は難しいから読まない主義で、あの、深山クンが高飛びしたかもってのは冗談で、そこまで馬鹿じゃないはずだから、だから、えと......そんなに怒らないでくださいよ!」

原「違う! これだ! 『ANAL航空893便が墜落した』と、一大ニュースになっているんだ! せめて朝のニュースくらいチェックしろ!」

原はリモコンを持ち、テレビを付けて三好に見せてやる。どこもANAL航空893便の話題で持ちきりで、わざわざチャンネルを切り替える必要も無い。

三好「うぇぇ......な、なにこれ。乗客が、全員死亡? みんな日本人? し、死者が、560人......?」

......アホの三好も、アホだからと言って、命の重みを感じぬほど、無頓着な愚か者ではないようだった。衝撃的なニュースに啞然とする三好を見て、原は「良かった。一応こいつも、ギリギリ人間ではあったか」と微妙な安堵を得た。
そして、鞄から号外の新聞を取り出し、すぐにあることを確かめた。

『【号外 未曾有の大事故! ANAL航空旅客機、墜落!!】
日本発、中東のプエルトルコ共和国行きの飛行機が、原因不明の墜落事故を起こした。墜落場所は、プエルトルコ共和国への経由国であるローレンスアラビア域内の、アッシリヤとの国境付近であった。
機体は、ANAL航空893便。搭乗者はキャビンアテンダント及び補助担当乗員11名、交代要員を含めた操縦士が4名、乗客が514名と確認されている。搭乗者の大部分は、日本人であったとされる』

痛ましい一面の記事に顔を顰めつつ、原は次の紙面を開いた。そこにあるのは、ANAL航空893便の搭乗者名簿であった。

原(頼む......頼む......! 無事でいてくれ!)

目を凝らし、五十音順に記載された名簿のマ行を何度も何度も確かめる。確かめたいのは勿論、第一に深山、そして深山の妻である深山雪菜の無事であった。

しかし......。

原(ああ、あった。悪い予感が、当たってしまった)

原は、深い嘆息を吐いた。幸い、深山自身の名は、記載されていなかった。しかし紙面には、彼の妻、深山雪菜の名が載ってしまっていた。

原(......そりゃあ、会社どころじゃないよなぁ。妻が、結婚したばかりの奥さんが、朝起きて新聞読んだら、死んでしまってたんだものなぁ......)

原「それどころじゃ、ないよなぁ......! 子供だって、まだだったのになぁ......!」

深山の心境を思うと、自然と目頭が熱くなり、頬を涙が伝った。
日本人が大量死した、凄惨な事件。その悲惨さを理解したつもりでも、どこか他人事のように感じていた事件が、今、原にとってとても近いものへと変わった。
近しい者が、親しい者が、脈絡もなく突然奪われる。いつも通りの日常だった昨日が、これからも続くはずだった平穏が、予告も無しに永久に失われる。
その痛みは、喪失は、いったいどれ程のものか、原には分からない。だが、たまらなく深山のことが痛ましかった。何か、ほんの少しでも慰めてやりたいと、心底思った。
原の手が、携帯電話へと伸びる。かける相手は、決まっていた。数回のコールの後、着信に応じた深山にホッと安堵し、原は声をかけた。

その話を聞いて、原は怒りに震えた。理不尽だ、と思った。
だって、深山の妻が不幸な事故に遭って死んだという悲劇は、揺らぐことなくここにあるのだ。深山にはその事実を知って、悲しみ、泣き、絶望し、その悲劇と折り合いをつける権利があるはずなのだ。
それを、そんな悪ふざけのような、いっそ喜劇と思えるような茶番で、穢していい理由などどこにもない。深山の悲劇が冒涜された怒りが、ぶつける相手も無く湧き上がる。

原「なんなんだ。いったい、何が起きているというんだ」

ぶつける相手のいない怒りは、理解不能な出来事へと向かっていく。
原だけではない。この日、多くの者が、心中に同じ疑問を抱えていた。

『いったい、この国で何が起きているのか』と。
原は切れた電話を片手に、しばらく呆けたまま固まっていた。
それから、少し後。情報入手をニュースと新聞に頼る原と対極的に、2ちゃんねるのまとめサイトを主とする三好から、『現在世田谷区では、男を狙う同性愛者の暴漢が大量発生している。深山は、そっちの事件に巻き込まれたのかも知れない』と教えてもらった。

原(なんだそれは、ふざけるな)

その話を聞いて、原は怒りに震えた。理不尽だ、と思った。
だって、深山の妻が不幸な事故に遭って死んだという悲劇は、揺らぐことなくここにあるのだ。深山にはその事実を知って、悲しみ、泣き、絶望し、その悲劇と折り合いをつける権利があるはずなのだ。
それを、そんな悪ふざけのような、いっそ喜劇と思えるような茶番で、穢していい理由などどこにもない。深山の悲劇が冒涜された怒りが、ぶつける相手も無く湧き上がる。

原「なんなんだ。いったい、何が起きているというんだ」

ぶつける相手のいない怒りは、理解不能な出来事へと向かっていく。
原だけではない。この日、多くの者が、心中に同じ疑問を抱えていた。

『いったい、この国で何が起きているのか』と。
〜ANAL航空・広報部〜

堀田「いったい、何が起こったってんだ!」

広報部長の堀田の怒声が、広報室の喧騒に紛れて搔き消えた。
一夜明けて、空飛ぶ広報室は蜂の巣をつついたような狂態に一変していた。室内にいる人間は電話の対応に追われる者、過去数十年の事故の資料をかき集める者、指示を飛ばし怒号を放つ者がてんやわんやと駆けている。

堀田「なぜ、まだ墜落の原因が分からないんだ! 馬鹿にしてるのか荒塚!」

荒塚「俺に当たらないでくださいよ! 俺だって頑張って交渉して、893便の最後の通信記録貰ってきたんですよ!? やれることはやってるんですって!」

堀田「手柄みたいに言うな! 事件の当事者が受け取れないわけないだろ! ......それに、役に立つかこんなもんが!」

堀田は、先ほど確認した通信記録を机に叩きつけた。あぁ! と荒塚が悲鳴を上げるが、堀田は気にも止めない。
最後の通信記録は、情報不足の現時点で、事件の真相に近づく唯一の手段であった。だが、音声を何度確認しても、事故の原因はさっぱり掴めない。繰り返し繰り返し音声を流す度に浮き彫りになるのは、ただ、我が社の操縦員の増永が取った、どうしようもなく愚劣な行動だけであった。

堀田(信じられん愚か者だ、増永という男は!)

通信記録が示しているのは、『異変が起きた後の』ANAL航空の操縦士の対応が、最悪であったという事実だけだ。
機体の危機に対し、機長の増永は死への抵抗の義務を放棄し、諦めた。それに留まらず、機長自らが死の宣告をし、乗客を絶望とパニックのどん底に叩き落した。

堀田(航空管制塔が通信記録を管理している以上、情報を握り潰すことは出来ねぇ)

機長が犯した最悪の愚行が、程なく日本中に知れ渡ることは間違いない。死に際した増永の狂態は、国民の怒りの炎を更に苛烈にするだろう。それは、既に致命傷を負っているANAL航空のトドメになりうる。

堀田(致命傷。そう、今の俺たちは、瀕死の虎そのものだ)

堀田は額に手を当てて天井を仰ぎ、ほんの束の間の休息につく。ふぅ、と渦中の輪から意識を脱すると、室内の異様な騒がしさを実感させられる。
皆、必死で対処に追われていた。皆、必死に事態の解決へ向けて奔走していた。日本最大の航空会社に勤めるエリート達は、危機の重大さを正しく理解していたからだ。
彼らを突き動かしているのは、愛社精神とか職務への義務感とか、ましてや国民への誠意といった、あやふやでふわりとした感情ではない。
彼らが鬼気迫る形相で忙しく動き回るのは、最悪の未来を回避する為。すなわち、自分達の巣であるANAL航空が潰れ、職を失うことへの切迫した危機感ゆえであった。

堀田(冗談じゃねぇ...! この歳で再就職なんてやってられるかよ!)

堀田は忌々しげに唇を噛む。飛行機というものは、その利便性と引き換えに、堕ちたらまず間違いなく死ぬというリスクを常に背負っている。だからこそ航空会社は、機体へ最新鋭の技術を惜しみなく注ぎ、熟達した操縦士の確保に邁進する。
「私達の飛行機は安全です。絶対に墜落しません」
この信頼が崩れた時、航空会社の命運は尽きる。現にANAL航空の元には、掻き入れ時の夏休みというのに、航空券のキャンセルの電話が殺到している。電話の中には、株価の急激な下落に対する、株主達のお怒りの声も多く含まれていた。

『①生存者0の墜落事故を、ANAL航空が起こした。②しかも、原因は一切不明。③更に、狂った機長のアナウンスにより、乗客達は絶望の内に死んでいった』

一切の言い訳が効かないこの三重苦は、ANAL航空という会社が吹き飛ぶのに十分な威力を持っている。
墜落事故の事実は変わらない。通信記録の流出を止めることも出来ない。それ故、現時点での堀田達の最大の急務は、事故の原因を突き止め、それを国民に説明することであった。
何故、墜落事故が起きたのか。これをハッキリさせない限りは、誰もANAL航空を利用しようとは思わない。
そして、『異変が起きる直前』の出来事を明確にしない限り、事故の原因はいずれ『機長の凶行によるもの』、あるいは『機体の整備の欠陥にある』として片付けられてしまうだろう。そうなれば、ANAL航空に復活の目は無くなる。
ANAL航空が潰れれば、良くても名を変えた上での再編成。最悪、二番手のJAKEN航空会社がANALに取って変わるだけだ。どちらにしろ、多くの社員が路頭に迷うことに変わりはない。

堀田(絶対に切り抜けねぇと......!)

自分の為、家族の為、生活の為、将来の為。様々な理由を抱えたANAL航空のエリート達は、自らの巣を守る為に奔走する。しかし生死の瀬戸際で戦う彼らの頭には、その頭上で決断を下すANAL航空の首脳陣の存在は、全く意識から抜け落ちていた。


〜防衛省 coat博士の研究室〜

宇野「なんJ民達を外に出せないとは、どういうことですか?」

coat博士「おい、あまり大きな声を出すな。バカ息子が起きてしまうだろうが」

宇野(図体のデカいなんJ民が、椅子に座る博士の膝にもたれて寝ている。......正直、かなりキモいな)

宇野「すいません。それで、理由は」

coat博士「ん。一言で言うと、今絶賛話題沸騰中の、ANAL航空の墜落事件のせいだな」

宇野「私達と墜落事件に、大した接点があるとは思いませんが」

coat博士「本来ならば、無い。だが今は、無理矢理にでも接点があると思いたがる連中が、わんさか湧いている最中なんだ。だからコイツらを、表に出すわけにはいかないのさ」

coat博士「今回の墜落事件、乗客が全員死亡という話題性も凄いが、最も問題なのは『墜落の原因が不明』という点だ」

宇野「まぁ、そうですね」

coat博士「不幸な出来事や恐ろしい事態に直面した時、それを何かのせいにしなければ気が済まないのが人間だ。ようは、理由をつけて安心したがるわけだな」

coat博士「今の日本は、軽度の恐慌状態にある。そこにノコノコと『異形である』バカ息子達の姿を、公共の場に晒してみろ。『事件を起こしたのはこの怪物のせいに違いない』と、たちまち愚民共に吊るしあげられるぞ」

宇野「......脈絡が、あまりに無さすぎませんか」

coat博士「恐怖に駆られた人間にとって、理屈や真実なんてどうでもいいのさ。理解出来ない事故の渦中に、理解出来ない生物が現れた。そうなれば一部の馬鹿な人間達が、本来繋がりのないこの両者を結びつけて、まとめて解決しようとするだろう。自らの安心の為にな」

coat博士「そうでなくとも、今バカ息子が表に現れれば、大多数の人間にとって、得体の知れない不審人物に映るはずだ。一度向けられた疑いの目は、完全に消えることは無い」

coat博士「それでは、困る。私のバカ息子は、人々のヒーローになってもらわなければいかんのでな」

宇野「しかし、KBSとの戦いの時も含め、なんJ民の姿というものは、既にある程度晒されているのでは」

coat博士「2ちゃんねるで軽く話題になった程度だ。コイツが車上に立つ写真を収めた奴もいたらしいが、よく出来た合成写真の烙印を押されて、それで終いさ」

coat博士「とにかく、平時なら多少の衆目は関係ない。だが、国民の心情が不安定な今の状態で、コイツを表に出すのは控えさせてもらいたい。今後に差し支えが出る」

宇野「では、またしばらくここに引き篭もりですか」

coat博士「少なくとも、墜落事件の原因が明かされるまでは、そうなるな」


〜ガン掘リア宮殿〜

野獣先輩「くそっ、始まりのホモめ!」

ニュースを見ながら、野獣は声を荒げた。野獣には、ANAL航空893便の事故原因に思い当たる節があったからだ。
始まりのホモがテロリストを求めていること。墜落場所が『テロリスト国家』との国境付近であること。事故の原因が全くの不明であること。そして始まりのホモの外道さ。
野獣の知るそれらの連なりが、墜落事件の犯人が奴であることを示していた。

野獣先輩「くそっ、なんてことを......!」

「田所さんは、甘いんですよ。世の中を変えようってのに、無血で事が済む訳無いじゃないですか」
以前、始まりのホモに言われた台詞を思い出す。人への殺生を是としない野獣が、奴のテロリストを呼ぶ提案を受け入れたのも、その言葉に理があると思ったからだ。

野獣先輩(しかし、だからと言って、無関係の人々を殺めていい理屈などないはずだ。この墜落事故が、俺達の理想郷と何の関係があるというんだ)

しかしいくら憤っても、野獣に始まりのホモを裁くことは出来ない。理想郷を創る計画に、奴はまだ必要不可欠であるし、何より奴がやったという確たる証拠は、一欠片も無かったからだ。推測のみで人を裁くなど、そんな痴漢冤罪のような真似は野獣には出来ない。

野獣先輩(あの男は......本当に俺達と同じところを目指しているのか......?)

野獣が答えの無い思考に没入しようとした時、背後から声がかかった。

KBTIT「田所さん! うんこ野郎だうんこ野郎!」

野獣先輩「あぁ!?」

平野源五郎「侵入者ですよ。じゅんぺいの店がヤられました」

虐待おじさん「じゅんぺいも、まひろも殺されちまってたぞォッ!!」

野獣先輩「......とうとう、現れたか」

野獣先輩「あの女(coat博士)の刺客が......!」

嫌な出来事とは、重ねて訪れるらしい。だが、野獣にとって、それは願ってもない知らせであった。

野獣先輩(上等だ。始まりのホモと違って、お前らなら遠慮無くぶちのめせるからな......!)


〜アッシリヤ・某日某所〜

??「......それで、儂等に濡れ衣を着せた日本人の一員が、こんな所に何の用だ」

『空爆避け』の為に、大きめな民家に偽装された、長老派の本部の中で。シム族からは長老と呼び慕われ、アシ族からは『アシム民族最悪の敵』と憎悪を向けられる、メッサラ=ベンハーが言った。
メッサラの冷淡な品定めの視線も意に介さず、始まりのホモは笑った。そして、決まってるじゃないですか、と前置きすると、彼は嬉しそうに答えた。

始まりのホモ「僕の用件は、『外患誘致』ですよ。あなた方テロリストに、日本でひと暴れして貰いたいだけです」

そう言うと、メッサラの眉間に皺が寄った。始まりのホモとしては、この反応は予想通りであった。本来なら関わりの薄い日本から、数日の内に二度、大きな接触があったのだ。不信感や警戒心を抱くのも無理は無い。
日本からの接触のうち二つ目は、現在の、始まりのホモによる接触である。では一つ目の接触とはなにか、というと、それは今日の早朝の出来事であった。

今朝、世界中にあるニュースが大々的に報じられた。それは、三日前の『ANAL航空893便墜落事件』が、テロリスト国家、アッシリヤの手によるものだという、ANAL航空による発表であった。