私たちは、なぜか非日常を求める。
 
非日常というのは、繁華街とかお祭とか旅行とか、とにかく日頃の生活とはちょっと違う時間のことである。
 
なんでそういうものを求めるのかというと、日常生活というのが、息苦しいものだからだ。

日常生活は最初から息苦しかったのではない。
 
最初は希望に燃えて、とまではいかなくてもちょっとは新鮮な気持ちで始めたはずの生活も、慣れるとなんとなく息苦しくなってしまうのだ。
 
息苦しいというのは心が動かないということで、それは今の生活に慣れてしまったせいである。
 
要するに、鈍感になって新鮮な気持ちが無くなったのだ。

そう、今の私のように。
 
新鮮な気持ちがなくなったのは今に始まったことではない。
 
新鮮な気持ちがなくなってきたことに気づいたのは、何年前だろう。
 
前までの私の生活は、満ち足りたという程ではなくても、なに不自由なく過ごしていた。
 
私は猫が好きだったので、黒猫を飼っていた。
名前は…………忘れてしまった。
 
しかし、三年前に悲劇が起きた。
 
私の飼っていた黒猫が、突然いなくなったのだ。

私は始めは、いつもの事だ、外に出ている、すぐに帰ってくるだろう
と思っていた。
 
しかし、三年たった今でも猫は帰ってきていない。

私の中の時計は三年前のあの日以来ずっと止まったままである。
 
いや、正確に言えば止まったままだった。
 
私はこの日、不思議な出会いをする。
 
それは、今思えば、神様からの贈り物だったのかもしれない。
 
一日目 《 出会い 》
 
私は、科学の教師をしている。
なぜ科学の教師になったのかという理由は、新しいものの発見に少し興味があったからだ。
将来の夢は、何か凄い発見をすることだった。
その夢が巡りめぐって、科学の教師になったのだ。

私の名前は、『 霜村 かな 』と言う。
願いが叶うように、と両親がつけてくれた名前だ。
 
私の両親は、私が小さい頃に亡くなった。
交通事故だった。

私は、それから毎日願った。
『どうか、生き返らせてください』と。
 
そして、今は『猫が生き返ってくるように』と願っている。
 
しかし、叶わなかった。
 
いや、叶うはずはなかったのだ。
だが、私にはそれが心の支えになっていた。
いつの日か、『ただいま』といって帰ってくる日を待っていた。
ただただ、待っていた。
 
しかし、いつまでたっても帰ってくることはなく、
ただ、日々が過ぎていった。

そして、この日、自分の人生に嫌気がさしていた私は、
《自殺》をしようと思っていた………
 
~~崖~~
 
私は、崖の上に立っていた。
下には海が広がっている。
辺りはもう薄暗くなっていて、日が沈みかけている。
 
夕焼けの薄明るい赤褐色の光が崖を照らしている。
下の海面に反射して、まるで血の海のようだ。
 
『この崖は、お母さんと来たことのある崖だったなぁ。』
 
この崖の上では母とよく遊んだ。
両親が交通事故で亡くなる前の日も、ここで遊んでいた。
 
『でも、もう大丈夫だな、これからは毎日会えるだろう。
学校の生徒たちはどうしようか。
 まあ、私がいなくなったぐらいでたいして変わりはしないだろうけどな。』
 
ズキリ、と胸がいたくなる。
 
『ふふっ、
自分で言って自分で傷ついてちゃ世話無いか。』
 
一歩、また一歩と私の足は崖の方へ向かっていく。
恐怖などはなかった。
『自殺をしたらどうなるんだろう、
やっと両親に会えるのでは?』と言う興味の方が強かった。
 
そしてついに、あと一歩で落ちると言うところまで来てしまった。

『さようなら、私。
 そしてごめんね、お母さんお父さん。』
 
……その時、後ろから声がした。
 
『本当に死んでいいんですか?
 後悔が何一つ無いと本当に言えるのか?』
 
その声に私は、ふと我に戻った。
そして後ろを振り替える。
そこにいたのは、まるであの猫のように黒い髪の毛の男の子だった。
 
『だ、誰だ!』
 
『僕の名前は、大将 だ。
 崖の方に向かうあんたが見えたんでな、気になってついてきてたんだ。
 あんたの名前は、何て言うんだ?』
 
『わ、私の名前は………』
 
はっ、何を言っているんだ、私は。
行きなり初対面の人に名前を言うのは、おかしいんじゃないのか?
 
私は黙り、俯いた。
 
困っている私を見かねたかのように、彼は呟いた。
 
『僕は、両親が亡くなった。
 《交通事故》だった。』
 
『な、なんだって!?
 本当か?
 詳しく聞かせてくれないか⁉』
 
はっ!
 
しまった、つい驚いて声が出てしまった。
この子も両親が突然亡くなって、ショックなはずだ。
私は、最悪だ………
 
『えーーーと、その、なんだ。
そんなに気を悪くする必要はないと思う、知りたいなら教えるしな。
ま、言いたくはないことではあるがな………』
 
私はふと、『この子はあの猫の生まれ変わりでは?』と思った。
 
あの猫もさばさばはしていても、
心のそこは優しかった、そんな猫だった。
 
そんな筈はないと思いながらも、『もしかしたら』、と言う気持ちに押されていた。
 
そして私は、ある提案をする。
このときの事は、今でも不思議に思っている。
なぜこのときの私は、このように大胆な発想をできたのだろう。

しかし、後悔はなかった。
『救ってもらった命だ。
 この子がいなければ、今ごろ私は死んでいただろう。』と言う気持ちだった。
 
『大将とか言ったな、
 お前、どうせ身よりもないんだろ?』
 
『……………ああ、そうだが……』
 
『どうだ、私の家に来ないか?
 私の名前は、霜村 かな と言う、
 私の両親も交通事故で亡くなっている。
 似た者同士と言うやつだ。
 もしよければなのだが………』
 
ああ、そうか、寂しかったんだ。
私は、今までずっと甘えることを知らずに育ってきたのだ。
それはきっとこの子も同じだろう。
 
『………どうだ、?』
 
『本当に………いいのか………?』
 
『ああ!!大歓迎だ!』
 
『…………じゃあ、よろしく……頼む。』
 
こうして、甘えることを知らない二人の不思議な共同生活が今、始まった。

to be continued………