自殺をしようとしていた私は、もう少しで飛び降りそうになっていたところを、
大将とかいう男の子に助けてもらった。
その子も、親を交通事故で亡くしていた。
そして、身寄りもないだろうということで、私の家に共にすむことにした。
 
  二日目 《 居候 》
 
『と、いうわけで、ここが私の家だ。』
 
私の家は、安いアパートの2階にポツンとある。
至るところが錆び付いており、今にも崩れてきそうなアパートだ。
 
このアパートに住もうと思ったきっかけは、
ペットOKだったからと、学校から近いからである。
 
まあ、居候OKとは言われていないが、そこのところはなんとかなるだろう。
『親戚だ』とか言っとけばいいか。
 
『それじゃあ、入ってくれ。』
 
『お邪魔………しま…す。』
 
『私の部屋は片付いてはいないが、いいところだと、私は思っている。
 まあ、どう思うのかは人の勝手だが。』
 
『え、……あ、ああ、………』
 
何故か、落ち着いていないようすである。
まあ、それもそうか。
行きなり初対面の人の家に入るなんて、ましてや住むことになるなんて、
戸惑うのは当たり前だな。
 
『待っていろ、今布団を用意する。
 ………くっ、あ、開かないぞ。』
 
なぜだ、なぜタンスが開かない?
 
『タンスが、開かないのか?
 別に、布団がなくても眠れるからそんなに気を使ってもらわなくてもいいぞ?』
 
『あ、ああ、すまない。』
 
しまった。頼りない大人だと思われただろうか。
 
『………そ、それじゃあ、飯を作ってやろう。
 すぐにできる、三分だけ待っていてくれ。』
 
『あ、ああ。』
 
………それにしても、この部屋、『片付いてはいない』といっても、ちょっと、汚すぎじゃあないか?
ろくに、自分の事も考えられてなかったんだろう。
 
大人は気苦労が多いのかもしれない。よし、居候の身だ、三分の間に出来るだけ片付けてやろう。
 
片付けをしていると、ふと一枚の写真が目のなかに飛び込んできた。
 
そこに写っている猫は、アメリカン・ショートヘアだった。
 
『この写真に写っている猫………
 どこかで………』
 
『お待たせ、できたぞ。
 ん、何してるんだ?』
 
『あ、いや、その、……』
 
『その写真に、興味があるのか?』
 
『あ、ああ、この猫、ちょっと見覚えがあってな………』

『本当か!?
 どこで見たんだ?え?え?』
 
………そうだ。思い出したぞ、あれは………
 
『近くにすんでいた、法修って言ったかな、そいつが拾ったって言ってた猫によくにていたんだ。
 ま、他人の、いや、他猫の空似と言うやつだと思う。』

『…………そうか、拾われて……いたのか。
 良かった。この鍬王町のどこかで今も鳴いているんじゃないかって思っていたから………』
 
『…………本当に………良かった……』
 
気がつくと、私は泣き出してしまっていた。
他人の目の前で、ボロボロと。
しかし、止めることはできなかった。
ホッとしたのだ。
体が、軽くなるのを、感じていた。
 
『ああ、すまない。
 つい泣いてしまって。
 飯が覚めてしまうな。ほら、食え。』
 
『これは…………』
 
『カップヌードルだ、手頃でうまいぞ。
 科学的にも、とても美味しいものだと思う。
 あと、ホットジンジャーエールもな。
 通常、炭酸飲料は熱すると炭酸が抜けやすくなる。
 ゆえに、ホット炭酸飲料の商品化は大変難しいものだったのだが、
 コカ・コーラの4年の開発により、ついに誕生したのだという。
 どうだ、凄いだろ!?』
 
『ふふっ、そうだな。
 科学が本当に好きなんだな。』
 
はっ、何て事を熱演してるんだ!私は!

………まぁいいか。
仲が深まったことに素直に喜ぼう。
 
『ああ、そうだな。私は科学が好きだから、科学の教師になったのかもしれないな。』
 
『ええっ!?
 あんた、科学の教師だったのか?』
 
『ああ、言ってなかったか。
 明日から、私の学校に来てもらおうと思っているんだが………』
 
『はあーーーー!?
 制服はどうするんだよ!制服は!』
 
『安心しろ、腐っても教師だ。
 制服はなんとかなる。はずだ。』
 
『はずってなあ、あんた………
 金は?名前はどうするんだよ!』
 
『明日からお前は、霜村 大将 と名乗って学校に行ってもらう。転校生としてな。』
 
『サポートできるところは、サポートしよう。』
 
『はあ、やれやれ。分かったよ。
 行けばいいんだろ?行けば。』
 
『あ、ああ、ありがとう。』
 
『いや、お礼を言うのはこっちだからな。
 それよりあんた、麺、伸びてるぞ。』
 
『え? ああっ!』
 
『たくっ、僕はちょっと散歩に行ってくるからな。』
 
『ああ、行ってらっしゃい。』
 
ふん、かわいいやつだ。慌てて出ていったぞ。
これからは、毎日、一緒に過ごすんだな。楽しみだ。
 
『さて、風呂でも入るか。』

~~外~~
 
辺りは完全に人の気配がない、冷たいコンクリートを月明かりが、薄明かるく照らしている。
 
『学校…………か、授業参観によく来てもらってたっけな………
 うっ、くっ、ひっく、えぐ、
もう………帰って……こないんだ。
 何でもないような……あの日々が、今思えば…奇跡の…連続だったなんてな
……戻るか。』

~~霜村の家~~
 
『…………ただい…ま。』
 
『ん~~大将か、お風呂だよ~~
 そうだ、一緒に入るか?』
 
『…………………は?』

えええええええええっ!?
ま、待て待て、それって、
すっごくやばいんじゃあ ないか!?
人に見られたら誤解される というか・・・ 
 
『…………いや、いい………』
 
『…そうか、だが、入らないとダメだぞ?』
 
『ひ、一人で……入れるっ、子供扱いするなよ』
 
『まあ、それゃあそうだな。』

『早く出てこい……寒いぞ………』
 
『ああ、お先にっ!』
 
『じゃあ、入るが………入ってくるなよ?』
 
『ああ、お酒を飲んでなかったら大丈夫だ』
やれやれ、かわいくないやつだなぁ、
ま、こんなところもあの猫みたい…か
 
『………あいつは、あんなに大人なのに、自殺をしようとしてたんだな。
 いや、大人だから、か。
 長い間、僕よりもずっと長い間、一人で耐えてきたんだな………
…甘えもせず…人の暖かみも知らず…か』
 
~~数分後~~
 
『………いい、風呂だった。』
 
『そうか!じゃあ、寝るか。』
 
『ああ、………』
 
『布団は………どうするんだ……?』
 
『…………タンスは、開かないんだろ………?』
 
『ああ、すまないな。一体、何が噛んでいるんだろうな。』
 
『………その、だな。なんだ。
 あんたさえよければ、あんたが飼ってた猫みたいに寝てやるよ』
 
『…………え…?』
 
『………は、ははっ。なに言ってるんだろうな、僕……』
 
『いい、のか………?』
 
『あ、ああ、風呂でいろいろ考えたんだがよ、僕よりもずっと長い間、一人で耐えてきたんだろ、と思ってさ。
 あんたも、わがまま言っていいんだぜ、と思ってな。』
 
『お、お前………本当に高校生か?』
 
『………僕の憧れてる人、みたいになりたくてな。
あの人は、一人で自分の事も、みんなの事も考えてた、
そして、殺人鬼と、戦ったんだ……』
 
『………お前……』
 
『僕の名前は ……霜村…大将 だ。
 これからよろしくな。』
 
『ああ、私のほうからもな。
 私はな、実を言うと、誰かを家に泊めたこと、
 いや、誰かを家に入れたこと事態、なかったんだ。』

『誰かと仲良くなっても、いつかは両親と同じように、私の周りから、
離れて行くんじゃないか、居なくなるんじゃないかって、不安だった。
だが、大将を見ていてわかった。
誰かに憧れることや、前向きにいきることの大切さをな。』
 
『………なんか、照れる……な
まあいい、明日も早いんだろう?
僕は明日、いつ学校に行けばいいんだ?』
 
『…………私と一緒に行くか?
 制服なども探さなけりゃあいけないからなぁ』
 
『ああ、そうだな。それがいい。
 で、何時だ?』
 
『朝、六時半だ。
 明日の朝は、六時おきだな。』
 
『分かった。じゃあ、おやすみ。』
 
『ああ、それと、私の猫は私のとなりで丸くなって寝てたぞ。
じゃあ、同じ布団だな。なあ、大将くん。』
 
『な、なんだってぇ!?』
 
 
 
--二人は、今日、平和だった。--