第一話
「彼が旅した土地」



『ラティアス航空ホウエン地方行きH71便にご搭乗のお客様方にご連絡致します。』
そう言えば、カロスを出発してからもう10時間程になる。離陸したのはお昼過ぎだったので着くのは夜になるかと思っていたら、おそらく時差の影響だろう。外は青く澄み渡っていて、雲一つない快晴だった。
すぐにそれを理解できたのは、時差ボケにならないように、飛行機に乗ったら先ずは寝た方が良いと助言してくれたシトロンのお陰である。
『当機は、あと3時間程でホウエン地方、カナズミシティ空港に到着致します。到着2時間前になりましたら、機内販売は終了となりますのでご注意ください。』
あと3時間...。あと3時間で...。
「サトシの旅した場所に着くんだ...!」
期待と不安が胸をいっぱいにしたのか、そんな言葉が口から押し出された。
そこに割って入るかのように腹の虫が鳴く。お腹が空いたことを教えてくれているのだ。
「ふふっ、これじゃまるでサトシね。」
気恥ずかしさを覚え、可笑しくなりながら呟いた。普段なら、テールナーやニンフィア、ヤンチャムが笑いながら相づちを打つところだが、今は居心地の良いボールの中に入ってガタガタと揺れる荷物入れの中だ。
まぁ、ボールの中に入っていればそんなことはどうってことはないから心配は要らないかな。
だが、さっき別れを経験したばかりでそばに大切なポケモン達が居ないのは少し堪えた。どうしても、皆と...彼と一緒に居られる道はなかったのかと、つい考えてしまう。
でも、今は叶えたい夢がある。それを蹴ってまで彼といたって、彼は嬉しいと思わ無いだろう。

『ご搭乗のお客様方にご連絡致します。当機は間も無く、カナズミシティ空港に到着致します。ご搭乗のお客様方は着陸の準備をお願い申し上げます。』
どうやらまどろんでいたようだ。3時間前のアナウンスがついさっきのように思われる。
私は急いで寝巻きから私服に着替えて着陸に備えた。彼から貰ったあのリボンも忘れずに身に付けた。


「うわぁ...広い...。」
あまり空港に来ないためか、さっきまで気にしない程度とは言え狭い部屋の中に居たためか、当り前のことを呟いた。
ええっと、荷物の受け渡し場所はっと...。...あった!
私はポケモン達が入っているモンスターボールを回収した。他の客は皆キャリーケースやボストンバッグをベルトコンベアから取っていくが私は観光でここに来たのではない。旅する者にはリュックサック一つあればそれで良し!
広い空港を出ると心地の良い風が吹いた。まるで自分を歓迎してくれているかのように。
カロスの風より暖かい...。
そんなことを思いながらホウエン地方での第一歩を踏み出そうとした。
その時。
「うわぁぁぁぁどいてどいてどいてぇぇぇ!!!当たっちゃうかもぉぉぉぉぉ!!!!」
気づいた時には遅かった。横から自転車が突っ込んできたのだ。
まずい...っ!!
衝突を覚悟した時、私は目をつむり、地に足が着く感覚を失っていた。しかし。

「フィア!」
「きゃぁ!!」

....え...?当たってない?
目を開けると、リボンで自転車を持ち上げているニンフィアがいた。運転手はそのまま落ちたようだ。
まさかホウエン地方での第一歩が尻もちとは...少し恥ずかしい。だがそんなことを考えている場合ではない。私はニンフィアにお礼を言いながら運転手に声をかけた。
「ぅぅぅ、ちょっと痛いかもぉ...」
「あの、大丈夫ですか?!」
緑のバンダナを頭に巻いたショートパンツの少女だ。歳は同じくらいだろうか。
「ううん、大丈夫かも!こっちこそゴメンね?怪我はない?」
特徴的な喋り方をする子だ。
「えぇ、私は大丈夫。ニンフィアが守ってくれたから。」
「フィア!!」
「わぁ!初めて見るポケモンかも!!えっと図鑑は...あった!」
少女は慌ててポケモン図鑑を取り出した。
これがホウエン地方のポケモン図鑑...。
『登録なし』
「えぇ?!何で?!!」
私も訳が分からなかった。
「そのポケモンはこの地方のポケモンでは無いってことだよ。」
突然背後から声が聞こえた。男性の声だ。私は驚いて振り向いた。少女も同様に驚いたようだったが、私の驚きとは違う驚きだった。
「タケシ!!」
「久しぶりだな、ハルカ!」
どうやらこの二人は知り合いのようだ。
「ゴメンねタケシ、ちょっと事故っちゃって。」
「二人とも怪我は無いんだろ?なら良かったよ。」
この男の人は私達より少し歳上だろうか。どうやら知り合いのようだが、一様聞いてみることにした。
「あの、お二人は知り合い?」
ハルカと呼ばれた少女が答えた。
「うん!前に一緒にこのホウエンを旅したの!その時はあたしの弟ともう一人いたんだけどね。あたしはハルカ!こっちはタケシ!タケシはポケモンドクターの研修のためにあたしとまたホウエンを旅することになったの!」
「よろしく!君は?」
タケシと呼ばれた男性が私に挨拶をした。
「初めまして!私はセレナ!そして、この子はニンフィア!私達、カロス地方から来たの!!」
「カロスから?それはまた遠くから来たんだなぁ。」
「じゃぁニンフィアはカロスのポケモンなのね!ところでセレナは何のためにホウエンに来たの?」
タケシは感心し、ハルカは質問してきた。
「えっと...ポケモンコンテストに出るために来たの。」
「じゃぁ!あなたもトップコーディネーターを目指してるのね!!」
ハルカが嬉しそうに言った。どうやらハルカはトップコーディネーターを目指してるようだ。でも私は少し違う。
「ううん、私はポケモンパフォーマーを目指してるの。そのための修行として、コンテストに出るんだ!」
残念そうな顔をするかと思ったら、ハルカはむしろ楽しそうだった。
「ポケモンパフォーマーと言えば、カロスで行われてるトライポカロンだな!」
タケシが言う。なかなかいろんなことに詳しそうだ。
「どんなことをするの?!!知りたいかも!!」
私が説明する前にタケシが説明を始めていた。説明を聞くとハルカは。
「すごーい!ポケモンだけでなく、人も踊ったりするのね!!」
「でも、その原点はこのホウエン発祥のポケモンコンテストなんだ!...ちなみに現在のカロスクイーンのエルさんは本当に美しくてなぁ!!」
なんと、エルさんのことも知っているんだ!そう驚いた瞬間、タケシのボールから一体のポケモンが現れたと同時にタケシにどくづきを食らわした。
「ぐぇぇぇ!!!妄想の中くらい許してシビレビレぇぇぇぇ...」
「...ケッ...。」
そう言ったかと思ったらボールに戻ってしまった。呆気に取られているとハルカが。
「き、気にしないでね!いつものことだから!」と苦笑いしながら言った。
「エルさんは前回のマスタークラスを征した挑戦者に勝ってクイーンの座を守ったんだ!」
復活するの早!!
「そう言えば、その挑戦者は誰だったかなぁ...。」
顎に手を添えてタケシは思い出そうとしている。
私のことだ。前回のマスタークラスで私は優勝し、バトルでエルさんに挑戦して、負けたんだ。
「セレナは、ポケモンコンテストに出るのは初めてなんだよね!」
ハルカが聞く。
「えぇ!でも狙うは優勝よ!!」
クイーンにはなれなかったけど、マスタークラスで優勝したのだからこのくらいの自信は持って良いはず!
タケシには悪いが、今は隠しておこう。負けたのが恥ずかしいわけでは無い。でも、今は言いたくなかったから。
「言ったわね?!なら、セレナはあたしのライバルかも!!」
ハルカはそう言った。
「てことは、ハルカもコンテストに出るのね?!」
「えぇ!絶対に負けないわ!!」
ライバル...その言葉でミルフィのことを思い出した。本当に良いライバルだったなぁ。
「ハルカはホウエンの舞姫と呼ばれてるんだよ。」
タケシが言った。舞姫?
「ちょっと!やめてよ!!ぅぅぅ恥ずかしいかもぉ...。」
と顔を赤くして叫んだ。そしてそれを誤魔化すようにこう言った。
「そうだセレナ!一緒にコンテストを周らない?!一緒に旅をしようよ!」

ー『セレナ!一緒に来ないか?一緒に旅をしようぜ!』ー

彼の言葉を思い出した。と同時にこう言っていた。
「うん!一緒に行こう!!」
若干頬が赤くなったが気にならなかったようだ。
「なら、今日はもう遅いからポケモンセンターに泊まって行こうか。」
タケシの言葉で気付いたが、もう夕暮れ時だった。私達はポケモンセンターに向かって歩き出した。
今日は楽しい夜になりそうね!きっとたくさんの旅の話を聞けるわ!...これで、この旅で...彼に一歩でも近づけるのかな。
「...サトシ...。」
「ん?なんか言った?」
ハルカに顔を覗き込まれた。私は手を振りながら赤くなった顔を隠して。
「ふぇっ!!なななななんでも無いよ!!!」
と声を裏返してしまった。二人とも笑っている。私もつられて笑い出したのだった。

ー私の旅は、まだまだ始まったばかりだ!ー


続く