第二話
「おはよう!ホウエンの朝!」


一流のポケモンパフォーマーを目指すセレナは、カロス地方でシトロン、ユリーカそしてサトシと別れ、ホウエン地方に降り立った。そして、そこで出会った仲間、ハルカとタケシ共にホウエン地方を旅することになったのだった。

朝だ。私は眠気を飛ばすためにベランダに出た。伸びをすると昨日感じた風と違って、少しひんやりとした感覚が身体を撫でて通り抜ける。
「んん...ふぁぁ~...気持ちいい朝ね。」
ハルカとタケシはまだ寝ているようだった。昨日は疲れていたのか、みんなと旅の話をする前に私は寝てしまった。でも、その話なら旅の途中でまた聞くことができるだろう。私は私服に着替えてモンスターボールを持ち、ポケモンセンター横のバトルフィールドへ移動した。
もちろん、彼から貰った蒼いリボンも忘れていない。今まで意識していなかったが、彼と別れてからと言うもの、このリボンが無くては落ち着けなくなっていた。彼の代わりと言ったところだろうか、それだけこのリボンには思い入れがあった。
バトルフィールドに着くなり私はボールを投げ、三体のポケモンを出した。テールナー、ヤンチャム、ニンフィアである。まずはみんなに朝のあいさつだ。
「みんなおはよう!気持ちのいい朝ね!さ、朝練はりきって行こー!!」
私達はパフォーマンスの練習を開始した。今日はみんな調子良く、昨日は良く休めたことが伺えた。特にヤンチャムは元気いっぱいで、休憩中も一人でブレイクダンスをしていた。
「ヤンチャム!休憩はちゃんと取らないとダメよ?」
「ヤッチャ!!」
元気いっぱいの返事をして残りの二体の所へ走って行った。

ふと、空を見上げていた。空は蒼く澄み渡っていて、今日は雲が点々としている。
...彼も、この空を見上げているのかな...。
視界いっぱいが全てと思ってしまうが、実は空はとても広く、どこまでも繋がっている。だから、今彼が旅している地方にも繋がっているのだ。そう考えると、少し寂しさが和らいだ。それが伝わったらしい、ポケモン達が安心したように私の目の前にいた。どうやら、私は何でもすぐに顔に出てしまうようだ。しばらくしてから、自分が微笑んでいることに気づいた。
「みんな...私は大丈夫よ!練習、続きやろうか!」

しばらく練習をしていると、何かが聞こえてきた。
「セレナ~!!」
誰かが私を呼んで走って来た。
「朝練するんだったらあたしも呼んでよ!セレナちょっとズルいかも!」
ハルカは止まるなりそう言った。特に怒っているわけでも無さそうだったが、一応謝っておく。
「ごめんね、ぐっすりと寝てそうだったから。」
昨日初めて会った時の第一印象があわてんぼうだったので、寝相がとても良かったことに驚き、ぐっすりと寝むっているように見えたのだ。
そのことを考えると、彼はハルカと対照的だった。しっかりとした人なのに、寝袋で寝ている時はそこまでなのだが、ひどい時はベッドから落ちて床で寝ているなんてこともあった。思い出すと、少しおかしくなって笑ってしまった。
「何がおかしいのよー!」
ハルカが頬を膨らませてそう言った。さらにおかしくなって笑ってしまった。こういった点はユリーカにそっくりだ。
「ちょっとセレナ!」
いきなり笑われては誰でも良くは思わない。すぐに仕切り直す。
「ごめんごめん!前に一緒に旅した仲間のことを思い出しちゃって。」
「そう言えば、セレナが前に旅した仲間ってどんな人達なの?昨日はすぐに寝ちゃったから聞きそびれてたし、聞きたいかも!」
その通りだった。私は旅の途中で聞くつもりだったが、この際だ。色々と聞いてしまおう。その前に、私の前の旅について話すこととなった。

「私はね、私を含めて4人でカロスを旅してたの。男の子が二人、私を含めた女の子が二人で...」
私は旅の仲間の一人ひとりを紹介することにした。
発明家でありミアレシティのジムリーダーであるシトロンと、その妹のユリーカ。二人はとても仲の良い兄妹であったこと。兄のシトロンの発明品にはよく助けられたが、その度に爆発して失敗していたこと。ユリーカは、幼いながらもとても強く賢い子だったことを話した。
「へぇ、なんか私と似てるかも!」
ハルカが言った言葉に私はお約束のように問う。
「似てる?」
「うん!昨日言ったかもだけど、あたしには弟がいるの。喧嘩もしたけど、結構仲がいいほうかも!ちなみに、タケシはカントーのニビジムのジムリーダーなのよ!」
タケシもカントー出身なのかと驚いた。なら、もしかしたら彼の挑戦を受けたことがあるのかも...。そんなことを考えていると、ハルカに先を促された。
「もう一人の男の子はどんな人?」
彼のことだ。唐突だったので少し赤くなってしまったが、どうやら気づいてなかったようだ。
「...うん、もう一人の男の子はね、サトシって人なんだけど...。」
そこまで言うとハルカが驚いたようにこちらを見ていた。
「...ど、どうしたの?」
我に返ったようにハルカは先を促す。
「う、ううん!続けて?」
「うん。で、その人はね、とても前向きで、強くて、いつでも諦めなくて、ポケモンのためならどんなことでも出来ちゃう人なの。リーグにも出場して、結果は準優勝だったけど、最後のバトルは本当に感動したわ!」
そこでハルカが聞いてきた。
「ねぇセレナ、そのサトシって人は何を目指してるの?」
「ポケモンマスターよ?」
「...もしかして、赤い帽子をかぶって、ピカチュウを連れてる人?」
呆気に取られた。全く特徴が一致しているのだ。間髪入れずに私は聞いた。
「なんで分かったの?!!」
返ってきたのは意外であり、当然の答えだった。
「だって、あたしが前に一緒に旅した仲間の一人だもん!サトシ、リーグで準優勝したんだ!!成長したかも!!」
「なんで?」
「このホウエンのリーグでは、サトシはベスト8止まりだったのよ。」
あのサトシが...意外だった。
「で、セレナはサトシのことが好きなのね~?」
脳で理解するより先に赤くなってしまう、それがハルカにとっての答えだった。
「へぇ~、ついにサトシのことが好きって人が出てきたなんて...なんか感慨深いかもぉ!!」
ニヤニヤしながら私に詰め寄りそう言った。
「えっ、ちょっ!なんで?!!」
動揺しすぎてうまく言葉を繋げられない。それがハルカの意地悪に拍車を掛ける。
「で?サトシのどこが好きになったの?」
「ふぇっ?!え、ぇぇぇ~」
最早赤くなり過ぎてオクタンのようだった。ハルカの意地悪な尋問は続く。
「前向きなところ?それとも、絶対に諦めないところ?」
限界だ。私は頭から湯気を上げて爆発した。図星なのよぉ...勘弁してぇ...!

ハルカの尋問が続く中、突然、草陰から何かが飛び出して、私の眼の前を電光石火の如く走り去った。それで気が削がれたのか、ハルカの尋問が止んだ。ほっと胸に手を当てる。
「?」
いつもある感触がない。手を離し、胸元を見る。しばらくの間、ショックのあまり思考が追いつかなかった。
...リボンが...ない?!!!!
そう思った瞬間、無我夢中で走り出した。おそらくさっき眼の前を通り過ぎた何かだ。それがリボンを奪って行ったのだ。後ろの方でハルカが何か言っていたような気がしたが気にも留めなかった。

どこ?!どこに行ったの?!!
夢中になって私は走っていた。確か、あれは赤い何かだった。ポケモンだろうか...。がむしゃらに走り続けるが一向に追いつかない。そしてついに角を曲がったところの路地裏で見失ってしまった。
「.......っ...ぅ.....ぅぅ....そん...な...。」
私は息を切らしてることも忘れ、他の言葉をも忘れて泣き崩れてしまった。
「セレナっ!!」
誰かが私を呼んでいる。ハルカだ。
「セレナ!な、何かあったの?!え、ちょっと、何で泣いてるの?」
私はただただ泣いていた。呼吸をすることすらも忘れてしまうほどに...。

彼の代わりとも言える大切なリボンを、奪われてしまった...。


続く