第四話
「嵐の予感?!さよならカナズミシティ!」


...疲れた。生身でポケモンと戦うことになるなんてこと誰が予想しただろうか...だが、やった甲斐はあった。証拠として、いつも涼しい顔をしていたあいつが、今回は少しだけど驚いていた。もう少しだろうか...もっと頑張らねば。
こいつは本当に無口だが、戦いになると、その中で俺によくアドバイスをくれる。腰が高いとか、踏み込みが浅いとか。でも今回は何も言わなかった。なんでだろう。
「なぁ、なんか言ってくれよ。」
『...。』
全く...仕方ないので、俺は飯と寝床の準備をしながら横目であいつを見ていた。




カナズミシティで奪われたリボンを取り返し、ホウエンでの初めてのポケモン、ロコンをゲットしたセレナは、タケシ、ハルカと共につかの間の休憩を取っていた。

「タケシは、どうしてポケモンドクターになろうと思ったの?」
道の途中、倒木に3人で腰掛けている中、私はタケシに聞いた。
「そうだなぁ...俺は元々、世界一のポケモンブリーダーを目指していたんだ。」
「え?でも今はポケモンドクターの研修中だって...。」
なぜ、ブリーダーを目指していたのに今はドクターなのか、その疑問が言葉となって飛び出した。
「あぁその通りだ。俺がサトシといろんな地方を旅していた時のことなんだけど、その中で俺はたくさんのケガや病気にかかったポケモン達を見てきたんだ。ドクターを目指し出す前までは、ブリーダーになるための修行の一環として手当てをしていたんだけど...。」

タケシは、彼ともう一人、ハルカと同じくトップコーディネーターを目指す女の子とシンオウ地方を旅していた時に、ポケモン達の手当てをして元気にすることにやりがいを感じてドクターを目指すようになったことを私に話してくれた。
彼の様に、最初に作った夢を貫き通そうとする人もいれば、タケシの様に、何かのきっかけで大きく夢が変わる人もいるんだ...。私は一つ勉強になった気がした。
「でも、なぜそんなことを?」
タケシが私に聞いた。正直なところ気になったから聞いただけなのだが。
「ちょっと気になっただけよ。でも夢が途中で変わるなんてことがあるなんて思わなかったわ。」
「長く旅をしていればそういう事もあるさ...もっとも、サトシの様に、ずっと変わらない夢を追うっていう事も素晴らしいと思うぞ。」
私はその言葉にしっかりと頷き、ボールから外に出しているポケモン達を見た。みんな私が作ったポフレに夢中である。そう、今はポケモン達のオヤツの時間だ。

「.......。」
その光景を真顔で見つめている人物が私の隣にいる。
「えっとぉ...ハルカ...?どうしたの?」
半笑いのその問いかけに弾かれたようにハルカが反応する。
「...えっ?!あぁ何でもないかも!」
何かあるのか無いのか分からない返事である。だが察しは着いた。
「ポフレ、ハルカも食べる?」
みるみるうちにハルカの目が輝き始める。よっぽどの食いしん坊と見た。
「ハルカは相変わらずだなぁ。」
タケシがそれを見て笑いながら言った。
「タケシも食べる?」
「いいのか?じゃぁ、頂こうかな。」

二人は見たことの無いお菓子を美味しいそうに頬張っていた。すると、ハルカのボールから一体のポケモンが出てきて、残りのポフレを全てさらってしまった。
「ちょっとゴンベ!!」
ゴンベと呼ばれたポケモンはハルカの叫びを無視して、その大きな口にポフレを全て放り込んでしまった。
「ぅぅ...アタシまだ食べたかったのにぃ...。」
「このポケモンは...。」
図鑑を取り出してポフレを食べたポケモンにかざす。いつの間にか、クセになった行動だ。
『ゴンベ、大食いポケモン。ボサボサの体毛の中に食べ物を隠して持ち歩く。食べる時はゴクリと丸のみする。』
図鑑での解説と全く同じことが目の前で起こっていることが少し面白かった。
「また作ってあげるから、そんなに落ち込まないで。」
まだしょんぼりしているハルカにそう笑いながら言って私は図鑑をしまうのだった。


「そう言えば、今はどこに向かってるの?」
私はタケシに素朴な疑問を投げかけた。
「ミシロタウンだよ、まずはそこのオダマキ博士に用があってね。」
そう言ってタケシはホウエン地方の地図を取り出し、指を指しながら。
「今、俺達がいるのはここ、トウカの森。そして、トウカシティ、コトキタウンを通ってミシロタウンを目指すんだ。」
「そのミシロタウンにいるオダマキ博士って、ホウエンのポケモン博士?」
その問にハルカが答える。
「そうよ、でも、フィールドワークの方が好きだから、研究所に居るかは分からないかも。」
フィールドワークの方が好きとは、中々アクティブな博士である。
「ポケモン博士ってことは、初心者用のポケモンも研究所にいるの?」
カロスではプラターヌ博士が、フォッコ、ハリマロン、ケロマツの3体を初心者用として新米トレーナーに渡していた。何故かサナ、ティエルノ、トロバの3人はカントーの3体であるフシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲを受け取っていたが...。かく言う私も、プラターヌ研究所でフォッコを選び、今に至る。
彼から聞いていたので、カントーの3体とシンオウの3体の内の1体であるポッチャマ、また、ホウエンの3体の内のキモリしか知らないので、聞いてみることにした。
「そうよ、アチャモ、キモリ、ミズゴロウの3体ね。アタシはアチャモを貰って、今はバシャーモまで進化したの!」
「バシャーモもホウエンの3体なの!?」
私が知るバシャーモと言えば、バシャーモ仮面、もとい、シトロンのパパのパートナーがバシャーモだった。まさかバシャーモがホウエンの3体だったとは。
「へぇ、セレナ、バシャーモ知ってるんだ!」
「うん!キモリも知ってるわよ!ねぇ、ハルカのバシャーモも『メガシンカ』するの?」
バシャーモ仮面のバシャーモは『メガシンカ』していた。個体が違えど同じ種ならあるいは、と思い聞いてみる。
「めが...しんか...?」
期待外れ、とは言えないが、ハルカの返答は正しく「何それ?」である。
最近はカロスの外まで広まっていると聞くが、やはりまだ一般的なものでは無いのだろうか。...ショータは知っていたのになぁ...。
「『メガシンカ』って言うのは、ポケモンが持つ『メガストーン』とトレーナーが持つ『キーストーン』の二つの特殊な石を使って、最終進化形から、一時的にもう一つ進化することなんだ。」
ここでタケシが解説を入れる。さすがはドクターの卵、よく知っている。

そんな話をしながら歩いていると、少し開けた所に出た。雲一つ無い快晴の空から、太陽の光が差している。急な日光を私は片手で軽く遮りながら目を慣らす。
「...これは...?」
あまりにもショックで誰が声を出したのか分からなかった。
目に飛び込んで来た光景は、まるで同じ色をの服を着た何人もの人が膝まづいているか、座り込んでいるものだと、私達に無意識に錯覚させた。恐らく、その光景があまりにも綺麗で混沌としていたから、整然としてかつ、騒然としていたからだ。
「一体何が...?」
タケシも動揺してつぶやく。
私達が辿り着いた場所は、こうなる前は森の一部としてあったたくさんの木々が、無惨にも幹の中ほどでへし折られ、青々とした空をのぞかせる、そこそこ大きい広場だった。
そして、何より不思議なことに、へし折られたはずの、木の中ほどから上が、散ったはずの葉が、木々に作られていたはずのポケモンの巣の残骸すらも、どこにも見当たらなかったのだった。


続く