第五話
「炸裂!タケシワールド!! 前編」




オダマキ博士に会うため、カナズミシティを出発したセレナ一行は、トウカの森を抜けて、トウカシティへ来ていた。


静か過ぎる...。街が静かなのでは無く、みんなが静かになってしまっているのだ。トウカ森で見たあの光景は一体何者の仕業だったのか...。あまりにも奇妙な光景は、謎を残したままみんなを黙らせてしまい、そのままトウカシティに着いてしまった。
そこでそれなりに落ち着いていたタケシが口を開く。
「みんな、疲れただろ?とりあえずポケモンセンターへ行こう。ポケモン達を休ませたいし、ハルカとセレナはコンテストへのエントリーも済ませられるはずだ。それから、日が暮れるまでまだまだ時間はあるけど、今日もポケモンセンターに泊まろう。」
久しぶりに人の声を聞いた気がする。私とハルカはハッとして頷いた。

ポケモンセンターに着き、ポケモン達を休ませている間、私はセンターのテレビ電話を借りてカロス地方アサメタウンの自宅に電話を掛けていた。
「セレナ!元気してる?!一人で寂しかったりしてない?!」
「もうママったら...。まだ旅に出て5日しか経ってないのよ?それに、新しい仲間もできたの!寂しくなんかないわ!」
とは言っても、やはりしばらくぶりに母の声を聞いた気がする。
「まぁそうなの!あなたは本当に仲間に恵まれてるわね。どんな人達なの?」
母に少し待ってもらい、二人を呼び出す...はずだったのだが。
「ハルカ?タケシ?ちょっといい、って...えぇぇぇ?!!」

「ジョーイさん!自分は前に一度ここに訪れた者なのですが、覚えておいででしょうか?!もしよろしければ、自分とお茶でも一緒に...!」
「あ...えぇっと...ごめんなさい、覚えてないです...えっと、これから仕事がありますので...」
何が起こっている?!
こんなもの凄い勢いで口説かれてはさすがのジョーイさんも困惑するというもの。タケシはもっと腰を落ち着けた人だと思っていた私は驚愕してしまった。
いや、ここまでの勢いでジョーイさんを口説く人がいるだろうか?少なくとも私は見たことが無い。
「そうですか...まぁ自分も旅人、様々なところに行きます故記憶に残らないのは仕方の無いことです。仕事もあるのは承知の上、ただ少しの間だけでも、自分は美しいあなたと愛を!!.....ぐぇっっ!!!し...びれびれぇぇぇぇ....」
「......クックックックッ...」
顔を真っ青にして倒れたタケシを、どくづきを食らわせたポケモンが奇妙な笑い声を出しながらズルズルとポケモンセンターの外へと引き摺っていった。
「あ...あのポケモンは...」
『グレッグル、どくづきポケモン。ほっぺたに毒袋を持つ。相手のすきをついて猛毒を滲ませている指を突き刺す。』
「な、なるほど...。」
またもや図鑑通りのシュチュエーションである。
確かに、とても威力の有りそうなどくづきだった。そこへ騒ぎを聞きつけたハルカが現れた。
「あぁセレナ?き、気にしないでね?いつものことだから...。」
呆れたような諦めたような、何とも言えない苦笑いでこちらに言った。
あれがタケシの普通なのか...。呆気に取られていると、後ろから母が私に呼びかけてきた。
「セ、セレナ?えっと、何が起こっているのかしら...?」
「えっ?!あぁ!ごめんごめん!紹介するね?ハルカよ、トップコーディネーターを目指しているんだって!サトシと前にこのホウエンを旅したこともあるの!」
「ハルカです!初めまして!」
戸惑っている母と私にを他所に、ハルカはいつものように元気よく挨拶する。
「まぁ!元気のいい子ねぇ!セレナのこと、よろしくお願いね。」
ハルカはそれを聞き、しっかりと頷く。すると背後に気配を感じた。振り向くと...。
「自分はタケシと言います!世界一のポケモンドクターを目指しています!」
復活速っ!!
エルさんの話の時もそうだったが、なぜあのどくづきを食らってそこまで速く復活出来るのか...。
「た、タケシもね?サトシと旅したことがあるんだって!」
「まぁ!あなたもサトシ君と?不思議なものねぇ。セレナ、サトシ君に感謝しなくちゃね。こんなにもいい仲間と出会わせてくれたんだもの!」
その通りだ。全ての始まりのきっかけをくれたのは彼だったのだから。あの時、彼がカロスに来てテレビに映っていなかったら、私は今頃サイホーンレースのトレーニングの真っ最中だったろう。今となってはいい思い出だが、もしそうだったらと思うとゾッとする。

母との電話を終えた頃に、私達はジョーイさんに呼ばれた。ポケモン達が元気になって帰ってきたのだ。
「はぁい!みんなすっかり元気になりましたよ!」
「ありがとうございます!」
モンスターボールを受け取り、みんなをボールから出す。
「テナ!」
「チャムチャム!」
「フィア!」
「コーン!」
うん、元気になっている。後でブラッシングしてからまたボールに戻ってもらおう。
「やっぱりいつ見てもセレナのポケモン達かわいいかもぉ!」
その言葉にヤンチャムが照れくさそうにしている。それを見て少し吹き出してハルカの方を向く。
「そう?ありがとう、ハルカ。そうだ!ハルカのポケモン達も見せてよ!」
そう言えば、まだハルカのゴンベとタケシのグレッグル以外のポケモン達を見ていなかった。タケシはなぜかモンスターボールを受け取った後ジョーイさんに声をかけて一緒に奥へ行ってしまったので、ハルカのポケモンだけでも見てみたかった。
「いいわよ!みんな出ておいで!!」
「バッシャー!」
「ゴンゴン!」
「シーア!」
出てきたのは三体のポケモン達。
「この子達があたしの自慢のポケモン達よ!ゴンベは前に見たわよね、この子がバシャーモ、そしてこっちがグレイシアよ!」
私は自分のポケモン達と共に三体に近づいて挨拶をした。
「よろしくねみんな!」
するとニンフィアとグレイシアがどちらとも無く近づいて互いに微笑みあっていた。
「あら?グレイシア、もうセレナのニンフィアと仲良くなっちゃった。」
「ほんと、やっぱり元々同じポケモンだったから波長が合うのかもね。」
ハルカはその言葉を聞いてピンと来ていないらしい。訝しげにこちらを見てきた。
「ニンフィアもね、進化する前はイーブイだったのよ。」
ハルカはニンフィアの存在を知らなかった。つまり、進化前はグレイシアと同一種だったとも知らない訳だ。
「え、そうなの?!へぇ、ニンフィアはイーブイの進化系だったのね!何だか面白いかも!」
だが私も、イーブイの進化系を見たのはブースターを見たっきり。グレイシアのことはサナから聞いただけで実際に見るのは初めてだ。
「グレイシアは、なんと言うか綺麗よね。スラッとしてて、輝いてる感じ。」
一つの言葉で表現するなら「優雅」と言うのが相応しい。あまり動きに無駄が無いのも魅力的だ。
「ふふっ、この子は凄いわよ。食べる姿も優雅なんだから!」
なるほど、ハルカも同じように思ってたらしい。
「ニンフィアはかわいらしいわ!リボンと青い目がキュートかもぉ!」
二体の方を見ると、ニンフィアがお得意のダンスをしていた。相変わらず、いいステップである。
「この子ね、進化する前、私がゲットする前からダンスが大好きで、それで一緒にパフォーマンスしたいなって思ったの。イーブイの頃は人見知りで、私やテールナー達と仲間のポケモン以外には凄く怯えてたんだけど、進化してからは人見知りし無くなったみたいなの。」
私はポケモン達をブラッシングしながら、ハルカはボールにポケモン達を戻しながら互いのポケモン達とのエピソードを話し合った。

私がブラッシングを終え、丁度ハルカとの話が終わろうとしていた時。奥の方、つまり治療室やモンスターボール保管庫の方から突然、ガシャン!と言う何かが壊れる音と女性の叫び声が響いてきた。それに驚いていると、そちらの方向から黒い何かが走ってきて自動ドアが開き切る前にそれを破って外へ出ていった。
「ハルカ!セレナ!大丈夫か?!」
それと同時に、タケシとジョーイさんが慌ててこちらへ走ってきた。
一体、何があったのか。さっき走っていったのは何なのか。
「タケシ、何があったの?」
そんなことを思案していると、ハルカがタケシに問いかけた。
「今は話してる余裕が無いから、移動しながら話すよ。二人とも、手伝ってくれ!」
そう言うなり、タケシは外へ走り出した。私は急いでボールにポケモン達を戻して、ハルカと共に外へ向かった。
「皆さん!乗ってください!!」
いつの間にかジョーイさんが車を出していた。屋根無しで無骨な黒の4WDだ。私達は急いで乗り込み、それを確認したジョーイさんはアクセルを踏み込む。
「タケシ!何があったの?!」
私はエンジン音に遮られないように叫ぶようにタケシに問う。
「実はさっき、ドクター研修の一環としてジョーイさんに申し出てポケモンの診療と治療をしていたんだ!それでひどく怒った様子で檻の中にいたあのポケモンを診ようとしたら暴れて逃げてしまったんだ!!」
タケシも大声で事情を説明した。するとジョーイさんがそれに補足する。
「あの子はトウカの森の中で傷ついてるところを保護されたのですが、人間に何かされたのか、人に対してとても攻撃的なんです!皆さん気をつけてください!」
街中からまだ木の少ないトウカの森の入口付近で、車は逃げ出したポケモンの背中を追いついてきた。私は図鑑を取り出し、全力疾走する背中に向ける。
『ヘルガー。ダークポケモン。口から出す炎には毒素が含まれており、一度火傷すれば完治するまでいつまでも疼く。』
「ヘルガーは悪タイプと炎タイプを持ってる!水タイプか格闘タイプが有利だ!戦闘になるかもしれない...ポケモンの準備を頼む!」
格闘タイプ...それなら格闘技を持っているヤンチャムの出番だ。
ハルカは、バシャーモが入っているであろうボールを手に取って準備した。タケシもボールを持って準備する。
やがて、森に入った辺りでヘルガーの右に車が並んび、追い越した。ジョーイさんはその直後、瞬間的にシフトをニュートラルに入れてブレーキを踏みながらサイドブレーキを掛けてハンドルを左へ切る。丁度、ヘルガーの進路を塞ぐ形になった。それに驚いたヘルガーは後ろへ跳び退き、車から5メートル程距離を取ると唸りながらこちらを睨みつける。ただ何かが引っかかった。ヘルガーのその動作には何か違和感があった。
「ガウゥゥゥ.....」
「ヘルガー!落ち着いて!私達はあなたの敵じゃ無いわ!」
私達が車から降りている間にジョーイさんがヘルガーに呼び掛ける。が、それに聞く耳を持たないヘルガーはジョーイさんに向かって火炎放射を打つ。
「バシャーモ!お願い!!」
ハルカが投げたボールがポンッ!と音を立てて開き、中から出てきた光は炎を弾いてバシャーモの姿になった。
「バッシャー!」
「バシャーモ!動いたらダメ!ヘルガーの攻撃を弾くだけよ!」
バシャーモは迷いの無い目でハルカに頷き、構えた。
「ヤンチャム!あなたもお願い!」
「お前もだ!頼んだぞグレッグル!」
ヘルガーの正面にバシャーモ、右にはヤンチャム、左はグレッグル。囲まれたヘルガーはさすがに不利と感じたのか、威嚇しながらも後ずさった。
「ヘルガー。」
しばらくの静寂を切るように私の対面、ヘルガーの左側から優しい声が呼び掛けた。タケシだ。
「大丈夫だ、落ち着いてくれ。」
そう言うと、ゆっくりとヘルガーの方へ歩き始めた。グレッグルは止めようとしない。
「タケシ!なにを...」
私が問いかけようとするとタケシはこちらに手の平を向けて静止する。何か考えがあるのだろうか。
黙って様子を見てみよう。
「ヘルガー...大丈夫だ。落ち着いて。」
ヘルガーに左手を差し出す。今にも暴れそうなヘルガーに接触を図ろうと言うのだ。
まだ唸っている。タケシはゆっくり、ゆっくりと手をヘルガーまで伸ばす。
いける!
全員がそう思った時、誰もヘルガーの牙の隙間から微量の炎が漏れ出ていることに気付かなかった。
「.......ルガアアァァァァァァァ!!!!」




続く