『BIOHAZARD Samurai Spirit Chronicle』



1998年……この年を忘れることなど、できるだろうか。

現在から21年前。1997年、4月。ラクーン警察署にはじめての日系人が配属されることになった。名はヒトシ・ヤクモ。歳は19歳。配属先は日本でいう警察一課、殺人などの凶悪犯罪を担当することとなった。と言っても、ラクーンシティはアンブレラ製薬会社をバックにした、治安が良く、のどかな街だと聞いていたのでヒトシは凄惨な光景を見ることは無いだろうと考えていた。……本当に噂通りの街ならば、この考えは間違ってなかったはずだった。
ラクーン警察署に勤務するようになってすぐから、署内で怪しげな会話を耳にするようになったのだ。
「おい聞いたか?また行方不明者が出たみたいだぜ…。」
「本当かよ…ちょっと前まではこの街は殺人やら誘拐やらとは無縁だったのによ…。」
ヒトシはこの会話を聞いたのは、先輩であるマービン・ブラナーに署内を案内してもらっていた時のことである。マービンはヒトシにとってとても尊敬できる先輩であった。正に警官の鑑とも言うべき、素晴らしい人物だった。他人への面倒見も良く、今回の案内を自ら買って出てくれたのだ。
「先輩、今のって…?」
ヒトシは考えていたものとは真逆の話を聞いて、少し声を小さくしてマービンに問う。
「あぁ、最近になって集団での行方不明者が増えたんだ。お陰でラクーン警察署の誇るSTARSも出突っ張りだよ。あと、先輩?そんな呼び方しなくていいぞ。と言うかどう言う意味なんだ?それ。」
両親が元々日本人で、幼い頃から礼節を叩き込まれてきたヒトシにとって、マービンをどう呼べばいいかは結構重要な問題だった。英語には「〜先輩」と呼ぶ文化が無い。かと言って「〜さん」を意味する「Mr.」ではよそよそし過ぎたので仕方なく日本語で呼ぶことにしたのだが、マービンからの訂正より前の発言のせいでその訂正はヒトシの耳に届かなかった。
「…先輩、STARSってなんですか?」
「呼び方、聞いてなかったのか……まぁいい。STARSってのはここ、ラクーン警察署の特殊部隊だ。ここでは毎年、有志署員の能力テストを行っててな、その結果次第でSTARSに入隊出来るんだよ。……お?噂をすれば、だ。へい!クリス!ジル!調子はどうだ?」
その声の向けられた先に顔を向けると、R.P.Dの青の制服では無く、左肩に三つの星を称えたTシャツを着て男女がいた。
「おぉマービン、相変わらず真面目そうな顔してるな。」
「ははっ!真面目なのが取り柄なんでな。」
クリスと呼ばれた男性が皮肉で無くそう言い、マービンがニッと笑って答えた。
「こんにちは、マービン。あなたは…この前配属されたヒトシね?初めまして、ジル・バレンタインよ。」
とても美しい女性だと思い、ついときめいてしまったが、すぐに動揺を消し去りこちらも挨拶をする。
「は、初めまして。八雲仁です。こちらこそ、よろしく。」
少し声が上ずって、更にくせで姓名を逆にしてしまった。動揺を消し去るとはなんだったのか…
「俺はクリス・レッドフィールドだ。よろしくなヒトシ。」
そんなことを他所に、二人はヒトシを暖かく迎えてくれた。
「今から出動か?大変だなぁお前らも。」
「まぁな、この頃二ヶ月に一回は出てるよ。ま、ラクーンの平和を守るのが俺たちSTARSだからな。それじゃ行ってくるよ、またなマービン、ヒトシ。」
ヒトシとマービンの手を振って二人は歩いて行った。その時、ヒトシは彼らの右太腿のホルスターに収められたハンドガンに興味を引かれた。グリップやハンマーの形状からしてM9だが…雰囲気が違った。あれは一体?
「よしっ、今日はこんなとこだな。戻って昼飯を食べて、午後からも頑張ろうぜ。」
「あっ、はいっ。」
これが後に別の組織で上司になる二人と、そしてヒトシの戦友となる銃とのファーストコンタクトであった。

ラクーン警察署に配属されてから三ヶ月経ち、何故かヒトシはSTARSのメンバー数人と仲良くなっていた。中でもSTARS一のガンマニアであるバリー・バートンとは、銃好きのヒトシとよく馬があった。
「バリーさん。STARSで使ってるハンドガンって、あれはどんなものなんですか?ベースは同じで、一人一人違うカスタムをしてるみたいですけど。」
ある日、偶然休憩室でバリーと居合わせた時にヒトシは聞いてみることにした。
「うん?あぁサムライエッジのことか。あれは元がM9のカスタムだが、一人一人がさらに違うカスタムをしてるのはアルファチームだけなんだ。」
サムライエッジ。武士の刃と言う意味だ。名前を聞いてますます興味が湧く。
「じゃぁ、ブラボーチームはみんな同じサムライエッジを使ってるんですか?」
STARS隊員と仲良くなったお陰で、アルファとブラボーの二チームで編成されていることを知ったが、ブラボーチームで知り合ったのは隊長のエンリコ・マリーニだけだったのでそこまでは知らなかった。
「そうだ。先ずサムライエッジって言うのは知っての通りM9をベースに、俺たちSTARS専用にカスタムされた銃だ。ブラボーチームが使ってるのはスタンダードモデル。そして俺らアルファチームが使っているのはその隊員専用に更にカスタマイズしたものなんだ。まぁ、ヘリの操縦専門のブラッドはスタンダードタイプを使ってるがな。」
そう言ってバリーは自分のホルスターからサムライエッジを取り出して見せてくれた。
「大きい…」
素直に出た最初の感想だった。バリーのサムライエッジのカスタムのメインは恐らく、9mm口径から40s&w弾仕様へのサイズアップ。リコイルを減らすために大型のコンペンセイターを取り付け、装弾数を確保するためにロングマガジンを採用している。そしてこれはバリーの好みなのだろうが、ハイブリッドグリップの木材部分をプラスチックに変えて、グリップメダリオンの色も赤色の周りを黒で囲むようにしてある。エンリコの物がスタンダードモデルと言う情報を基に考察した結果だ。
「ははっ!俺はこのくらいが丁度良いのさ。俺は大口径主義だからな、M9ベースで限界まで大口径にしたかったのんだよ。」
「他の人はどんなカスタムにしてるんですか?」
ますます興味深い。どうやらアルファチームのサムライエッジには所持者の趣味などが大いに反映されているようだ。他のメンバーの物はどんなのか気になって聞いてみることにした。
「そうだなぁ。先ず、アルファチームのサムライエッジのグリップメダリオンには一人一人のパーソナルカラーに変えてある。例えば俺は赤に黒。クリスなら青に黒。ジルは水色に黒で、ウェスカーは黒一色ってとこだ。大まかなカスタムの主軸だが、クリスは射撃性能、戦闘での使い易さの向上。ジルは出来るだけコンパクトに。ウェスカーは隠密行動用に動作性能と拡張性の向上ってとこだな。…多分、ウェスカーのサムライエッジが一番金かかってるんだろうよ。なんせジュラルミンを削り出して作ったフレームを使って、その上サプやらライトやらレーザーなんかも揃えてんだから…。」
バリーはそう言って最後の言葉に苦笑いをした。雰囲気からして、ウェスカーなる人物の銃が最もカスタムポイントが多いらしい。しかしヒトシの興味を最も引いたのはクリスの物だった。射撃性能、戦闘時の使い易さの向上。この二つは、極めればランチャーよりも価値が出るものだ。…比喩である。
「…興味深そうな顔してるな。今度クリスのやつに射撃場で撃たしてもらえるように頼んどいてやるよ。」
「え?!良いんですか?!」
かなりの食いつき様にバリーが苦笑いを浮かべるが、すぐに任せておけと言わんばかりの笑みに変わった。

射撃場に行くことになったのはあれから一週間後のことだった。場所はラクーン警察署の近所にあるケンド銃砲店だ。…そう言えば、バリーのサムライエッジのスライドの片側にkendoと刻印されていたが、何か関係有るのだろうか。
三人が集合して店に入ると、ショウケースを兼ねたカウンター越しにショットガンの手入れをしている店主らしき人がいた。日系人らしい彼はこちらに気付くと手を振って歓迎してくれた。
「よう、クリスにバリーじゃないか。今日はどうしたんだ?」
少しくぐもった声だった。しかしその声には温かみがある。良い人なのだろう。
「ようボブ。ちょっと地下の射撃場を使わせて欲しいんだ。コイツの実技訓練でな。」
クリスがそう言ってヒトシの肩を叩く。訓練…と言うのはあながち間違っていない。今回はSTARS一のガンマニアと、STARS一の射撃手の指導を請うこともできるのだから。
「お、新人か?STARSの?」
「いや、最近R.P.Dに配属されたんだ。まだSTARSじゃ無いよ。いずれはSTARSに成るかもしれんがな!」
バリーが冗談でも無いように笑いながら言った。…なれたら良いとも思うが、まだ自分の意思も分からないので何も言わなかった。
カウンターを通った所にある扉を開けて階段を降りるとシューティングレンジに出た。ターゲットシートを掛けて、先ずは5mと思っていたところでバリーが10mの距離に設定した。呆気にとられているとクリスからサムライエッジが渡され、一目で想像以上に洗練された銃だと驚かされた。スライドは硬質スチール製に換装。また光の反射防止、また寸法変化にも強くするためにブルーフィニッシュが施され、トリガーは程よく滑ってストレス無く引けるようにシルバーメッキ仕様。グリップの厚みの左右非対称さがよりはっきりしてとても握りやすい。改造箇所は少数だが、一つ一つに磨きがかかっている。
撃ち終わった後にシートを見た二人は驚いていた。五発撃ったところ、三発がホールインワンショットとなっていたからだ。どうやらヒトシには射撃の才能が有ったらしい。
「すごいな…銃を撃ったことは…って、警察学校で撃ったことくらいはあるよな。」
「まぁ警察学校の練習で使う銃は安物だからなぁ。命中精度はこっちの方が格段に高いが、ここまでとは…」
警察学校時代の練習では、グルーピングもかなり広がっていたのでこんなもんなのかと思っていたのだが。自分の才能への驚きを感じつつ、サムライエッジはここまで高性能なのかと驚愕、惚れてしまった。
「クリスさん、バリーさん。この銃はどこでカスタムされた物なんですか?」
欲しい。この銃を、自分のカスタムで使いたい。そう思った。
「あぁ…署長が許可を出してくれるかどうかだよな。」
こうしてヒトシは自分だけのサムライエッジを手に入れるためにブライアン署長に申請書を叩きつけることとなったのだった…。

申請は呆気なく却下された。当たり前だが、サムライエッジはSTARS専用モデル。普通の警官の、それも新米からの無茶振りなど通るはずもなかったのだ。少し気分が落ち込んだままなんとなしにケンド銃砲店に行くと、「ボブ」とクリスから呼ばれた中年の日系人が待っていたと言わんばかりの笑顔でヒトシを迎えた。
「ヒトシ、だったな。俺はロバート・ケンド。よろしくな。」
握手を交わして自己紹介を軽くした。聞く所によると、STARSの正式採用銃サムライエッジを製作したのは彼の兄でサンフランシスコにガンショップ「KENDO」を構えるガンスミス、ジョウ・ケンドだそうだ。また、クリス、ジルそしてウェスカーのサムライエッジをそれぞれの専用にカスタムしたのも兄のケンドで、バリーの物の草案を出したのは弟のケンドだそうだ。驚いたのは、ウェスカーの物はウェスカー本人が作図したらしい。凄い人だ…。
「今回の話では兄貴から送られてきたこのスタンダードタイプからカスタムするって話だが…気前がいいな、kendoの刻印が入ってる。」
どう言うことかと首をかしげると、ロバートは苦笑いしながら言った。
「このkendoの刻印はな、この世の銃のなかで四丁だけに刻まれた特別なものなんだ。いや、今は五丁か…何にせよ、ブランド意識があるのか無いのか…。」
「え、いやそう言うことじゃなくて…え?」
嘆息混じりの言葉にヒトシは困惑した。申請は却下されたはずだ。何故サムライエッジが目の前にあって、自分の物としてカスタムの話になっているのか。
「うん?その様子じゃバリーのやつ、伝えてないな。ヒトシ、よかったな。バリーが兄貴に電話で頼んでサムライエッジを送ってもらったんだよ!」
思わず苦笑いが出てきた。ヒトシは嬉しすぎるとこうなるらしいということを自覚して、バリーに後で礼をしなくてはと思ったのだった。

カスタム自体は順調に進んだ。と言うより、ヒトシは銃好きとして、銃の知識だけは有ったのでどんなカスタムにするのかは先に考えていたのだ。その内容を伝えると、カスタムの組み上げに五日、後はテストと調整だけだと言われ、ヒトシは一旦帰ることにした。
五日後、遂に自分だけのサムライエッジが手に入るとワクワクしながらヒトシはロバートのもとへ向かった。扉を開けて中に入るとカウンターの向こう側には満面の笑みのロバートがいて、その目の前にはガンケースが一つ置かれていた。
「できたんですね?」
思わず口から飛び出た声は裏返ってしまった。
「あぁ…見てくれ、俺が仕上げた最高の一品だ!」
ロバートも嬉しいようである。ガンスミスとしていい仕事ができたようだ。
ロックを解除し、蓋を開ける。そこにあったのは……正にヒトシの理想を具現化した物だった。
「……ブルーイングしたスライドに、鏡面仕上げをしたフィーディングランプ。シルバーメッキ仕様のトリガー。短縮化したシルバーメッキバレル。20mmのアンダーレイル標準装備のフレームに、グリップ部分のバックストラップ、フロントストラップは滑らないようにチェッカリング仕様。強度は落ちるけど、ハンマーダウンのスピードを確保するためのスケルトンハンマー。……完璧だ…!」
スライドの刻印にはホワイトで墨入れ。グリップメダリオンには外側に黒、内側にヒトシのパーソナルカラーである紫にリカラーしてある。握ってみると手によく馴染む。食い付いてくると言うより、浸透してくるかのようだ。
調整やテストはすぐに終わった。サムライエッジ自体の性能がとても高性能なためである。テストか終わって、サムライエッジを眺めていると携帯電話が鳴った。
「ヒトシ!どこで油売ってるんだ!?すぐに来い!出動だぞ!」
マービンからだった。どうやら珍しく事件が発生したらしい。
「すみません!すぐ行きます!」
ヒトシはロバートに頭を下げる日本流の礼をしてから、気を利かせたロバートから9mmパラベラム弾を受け取り店を飛び出した。

事件解決には一切血が流れなかった。ヒトシが犯人が立て籠もる部屋に突入し、暴徒を落ち着かせたから、などでは無い。ヒトシが突入して暴徒と睨み合ってしばらくしてから突然、暴徒が苦しみ出して死んでしまったからだ。とても奇妙な死体だった。身体中に湿疹らしきものがあり、死後すぐから腐乱臭がしたのだ。
署に戻り、報告書をブライアン署長に提出すると、署長は目を細め、無表情のまま報告を眺めていた。仕方なく出て行こうとすると、署長に呼び止められた。
「……ヒトシ・ヤクモ。君には別の署に移ってもらう。」
「へ…?転勤…てことですか?まだここに配属されてから半年経つか経たないかです……よ…?」
振り返った先にあったのは、無表情の中に残酷さが宿った顔だった。有無を言わさない、恐ろしさを与える物だった。

1998年10月1日、朝。ニュージャージー州のとある警察署に移っていたヒトシは、自宅でラクーンシティが核攻撃により消滅したことを知った。原因はアンブレラが開発したと言うウィルス兵器。それを滅菌するために消滅したのだ。あの時親交を深めた人達の安否も不明。ヒトシは何も考えられなくなってしまい、茫然としたまま、辞表をした。その脳裏には、あの日の奇妙な死体のイメージだけが残し、彼は行方をくらました。

「集合!!」
その号令に、すぐさまドカドカと重装の男達が走る。静まり返ると同時に、足元に地図が映し出された。BSAA最新のデバイスによるブリーフィングの開始だ。
「俺たちアルファチームはここから東のビルに向かう。ビルに着いたら一旦待機して、ブラボーチームから研究施設の無力化の連絡が来てから二チームに別れて別方向から突撃。屋上で人質を救出し、テロリストを逮捕する。但し、テロリストはGウィルスを所持している可能性があるので人質に感染したり、テロリストに使用させないように気を付けろ。ピアーズはこのビルの屋上から援護を頼む。」
テキパキと作戦内容を指示するのはクリス・レッドフィールド。特権こそ捨てたが、BSAAを創設した当時のメンバー、オリジナル・イレブンの一人にして、様々な死地での任務を成功させてきた生ける伝説だ。メンバーは皆、そんな彼を尊敬し、どこまでも着いて行く。
「毎度言っているが、作戦続行不可能と判断したらすぐに逃げて態勢を立て直せ。お前達は俺の家族だ…必ず生き延びろ。…さぁ、行こう!」
その言葉に皆が力強くうなづいて動き出した。その時クリスは、最後にキャンプを出ようとする隊員に何かを感じて彼を呼び止め、聞いた。彼は此度の任務から初参加の隊員である。
「おい、お前。前にどこかで会ったことがあるか?」
その隊員は立ち止まり、クリスに半身を向けて答える。
「…えぇ。もしかしたら、どこかで…どこかの廊下ですれ違ったかも知れませんね。」
部隊員は全員BSAA北米支部の人間だ。それなら支部のどこかですれ違っていてもおかしくは無い。
「…そうだな。引き留めて悪かった。さぁ、行こう…!」
「はい!クリスさん!」

共に出発した隊員のホルスターに収められた銃を見ながら、クリスは歩く。
三つの星をあしらったメダリオンを称える、懐かしい銃を。




後書き

ポケモンの2話分前に頂いたコメントで、オリジナルの小説はどこに投稿するの?と聞かれたのですが、なろうに投稿しようかと考えております。また、恐らく初見さんかと思いますが、面白いと言ってくださって本当に嬉しいです。カクヨムの方への投稿は今はまだ考えておりません。
ポケットモンスターα&Ωなのですが、現在受験に向けて猛勉強中のため一年ほど投稿できないと思います。じゃぁなんでこんなの書いてるんだって話なんですが(笑)。
一年後、皆様にその気が残っているなら、よろしくお願いします。