それは、良く晴れた日の朝だった。

川崎「あ!はーちゃんだ!!」

比企谷「か、川崎?」

京華「ちょっとけーちゃん!
大きな声で呼ばないの!約束でしょ?」


俺が登校して駐輪場に着くと、そこには
満面の笑みで手を振る川崎と、
その妹のけーちゃんこと川崎京華がいた。
けーちゃんがここにいる時点で
おかしいのだが、何よりもあんな
笑顔で手を振ってくる川崎に、
俺は妙な違和感を覚えた。


川崎「はーちゃん!おはよう!」


比企谷「か、川崎…お前その呼び方
どうした?家庭の為に頑張り過ぎて
ついにおかしくなったのか?
つか、お前何でけーちゃんを学校に
連れてきてんの?」

川崎「えへへー♪」

京華「それが、その…」

比企谷「けーちゃん、保育園は休みか?」

京華「ひ、比企谷その…落ち着いて
聞いてくれ…実は……」


比企谷(待てよ…川崎もそうだが、
このけーちゃんも様子が違うぞ)

京華「けーちゃんと入れ替わっちゃった…」

比企谷「…は?」

京華「だ、だから、けーちゃんと
体が入れ替わっちゃったんだってば!」

川崎「はーちゃん!」

比企谷「うそだ…」

京華「どうしよう比企谷…」

川崎「けーちゃんは
さーちゃんになったのー!♪」


はーちゃんと呼ぶ川崎と、
比企谷と呼ぶけーちゃん。
信じたくはないが、言っている事が
嘘ではないという事が嫌でもわかる。

先ずけーちゃんは俺を苗字で呼んだり
しない。ましてやあの川崎の事だ。
こんな俺相手でもけーちゃんに
年上を呼び捨てで呼ぶような
教育はしないだろう…。そして何より、
あの川崎が人前でこんな
フレッシュなキャラになるはずがない。

川崎「学校学校♪さーちゃんの学校♪」

比企谷「と、とりあえず
ここで話すのはまずいな。場所を変えるぞ」

京華「そ、そうだね。けーちゃん、
ちょっとおいで」

川崎「はーい♪」

俺は2人を連れて校舎裏に向かった。


校舎裏にて


比企谷「そんで、いつから
入れ替わったんだ?」

京華「今朝、あたしと大志と
けーちゃんの3人で朝ご飯
食べてる時だよ」

比企谷「って事は、大志も
この事は知ってるんだな?」

京華「うん…」


比企谷「誰かの体と入れ替わるつったら
ぶつかった衝撃とかがメジャーだが、
どうなんだ?」

京華「いや、ぶつかってはないよ。
ただ…」

比企谷「ただ?」

京華「その…大志が最近変な本を
学校から借りてきたみたいでさ…」

比企谷「変な本?」

京華「うん…これなんだけど」

川崎もとい、けーちゃんの体と
入れ替わっている川崎は、
保育園バックから一冊の本を取り出し、
その本の表紙には”催眠術入門書”と
記されていた。


比企谷「…催眠術?」

京華「うん…」


比企谷「まさか、大志がお前らに
催眠術をかけたとか言うんじゃ
ないだろうな」


京華「…最初はたわいない会話から
始まって、大志がどうしてもって
言うから仕方なく付き合って
やったんだ」

比企谷(あぁ、そ言えばこいつブラコン
だったな。弟の為ならしょうもない
遊びにも付き合ってやるんですね)

京華「変な呪文を唱え出して、
そしたら一瞬意識が遠くなって…」

比企谷「気づいたら入れ替わってた訳か…」

川崎「たーちゃんの魔法!♪」

比企谷「んで、これからどうする
つもりだ?いくら見た目が川崎でも、
この川崎は学校に入った瞬間
大変な事になるぞ」

京華「分かってる…でも、
この状態で学校を休んでも、
今のあたしじゃ家でけーちゃんを
見る自信がない」

確かに、それもそうだ。
けーちゃんの体になった川崎が
川崎の体になったけーちゃんを
1人で面倒見れるかと言ったら
とてもハイリスクだ。
かと言って受験生である大志が
学校を休むと内申点に響く
可能性だってある。
俺に頼るのが無難って訳か。


京華「それに、あんたなら
上手くフォローしてくれるかなって
思って」

川崎「はーちゃんと学校ー!」

比企谷「なっ!!」

深刻に話し合う俺らとは逆に、
けーちゃんは川崎の体で
俺の腕にしがみついてきた。

京華「こ、こらけーちゃん!
やめなさい!!」

川崎「えへへー♪」

やばい、これはやばいぞ。
中身がけーちゃんとは言え
体は川崎沙希だ。
”女子の胸って当たると
こんな感じなんだー”と瞬時に
思ってしまった自分を反省。

京華「と、とにかく保育園には
けーちゃんが休む事を大志に
電話で伝えてもらったからその…
出来ればあたしとけーちゃんと一緒に
大志が帰ってくるまで…」

川崎「はーちゃんと学校に行くー♪」

比企谷「えっ」

京華「ちょっ!けーちゃん!
家に戻る約束でしょ!学校の中には
入らないの!はやくはーちゃんの腕を…」

川崎「やだやだ!はーちゃんと
学校に行くー!!」

比企谷「かわさ…いや、けーちゃん。
それはさすがに…」

京華「けーちゃん!いい加減に
しないと怒るよ!?」

川崎「うわぁぁん!!」

比企谷「!!」

京華「ちょっ、けーちゃ…」

川崎「学校行くもーん!!」

多分、川崎が俺に頼もうとした事は
大志が帰ってくるまで一緒に
川崎家で面倒を見てもらう
事だったんだろう。
要求が通らず泣きだす川崎…
の体と入れ替わったけーちゃん。
泣いた川崎ってこんな感じなのか?

京華「もう!けーちゃん!」

比企谷「…はっ」

いやいや、考えるべきはそこじゃない。
校舎裏とは言えどこに誰がいるか
わからない。見られる前に
早く何とかしなければ。

比企谷「じゃ、じゃあけーちゃん。
俺と一緒に一回学校に入ろう。
その代わり、ちょっと教室を見たら
3人でお家に帰るんだ。わかったかな?」

川崎「うん!!」

京華「ちょっ比企谷!
あんた何言ってんのさ!」

比企谷「仕方ねーだろ。このまま
今の状況を誰かに見られた方
後々大変だろうが」

京華「そりゃそうだけど…」

比企谷「HRが始まる前に教室に入り、
HRが始まる前に教室を出る。
別に誰かと関わる訳じゃないし
そのくらいなら良いだろ」

京華「で、でもさ、あたしはどうすんのさ」

確かに。問題はこの幼児化した
川崎の方だ…いや幼児化ではないか。
保育園児が学校に入るなど
そうそうないケースだ。
玄関に足を一歩踏み入れた瞬間に
注目を浴びてしまう。

京華「あたしは中に入れないよ?」

比企谷「仕方ない。手を打ってみるか」

俺は携帯を取り出し、とある人物に
連絡をした。

京華「…あんた誰に連絡したの?」

比企谷「この状況下に適任してる
部外者だよ」

京華「大丈夫なの?あたし、この事
他の人に知られたくないんだけど」

比企谷「そこは上手くやるさ」

5分後


材木座「待たせたな同胞よ」

京華「うげ!」

比企谷「朝からすまん。お前に頼みがある」

材木座「ふむふむ、、見た所、
かなり危うい状況のようだ」

京華(まだ何も言ってないんだけど)

川崎「わはははは~!」

材木座「はぅ!」

何かツボったのか、材木座を見て
指を指して笑うけーちゃん。

材木座「八幡よ、この女はなにゆえ
このような変貌を…」

比企谷「川崎だって笑うんだ。
同じ人間なんだから当たり前だろ」

材木座「ふむ…女はわからん」

比企谷「材木座…お前に頼みがある。
今から約10分だけ女の子を預かって
欲しいんだが」

材木座「こっ、この女をか!?」

比企谷「馬鹿そっちじゃねぇよ。
預かるのは川…こっちの子だ」

京華「あ、ちょっと」

俺は入れ替わった川…もう面倒くさい。
川崎京華を抱き上げ材木座に見せた。

材木座「我に子供の相手をしろと?」

比企谷「あぁ、俺は今から川崎と
一緒に教室に少し顔を出したら、
今日はもう早退する予定だ。
その間、ここで面倒をみてくれ」

材木座「ふむ、、イマイチ理解
出来ぬが、生き残った唯一の友の
頼みなのであれば仕方ない。
その頼み、引き受けよう」

京華「ちょっと!比企…」

比企谷「こほん…じゃあけーちゃん。
ちゃんとお兄ちゃんの言う事
聞いてるんだぞ?」

京華「あっ…///」

演技で川崎京華の頭を撫でた後、
俺はこの川崎沙希と一緒に
教室へ向かう事にした。

比企谷「すまん材木座。
今度サイゼで奢るから」

川崎「さーちゃん、ちゃんと
お利口さんにしててね♪
イタズラしちゃダメだよ?
お友達と仲良くねー♪」

これは川崎がいつもけーちゃんに
言い聞かせている事なんだろう。
とりあえずけーちゃん。川崎の体で
俺の手を握るのはやめようね。
あとで本物に殴られるから。俺が。


川崎「行こう!はーちゃん!」

比企谷「け…さーちゃん。手を
繋ぐと怒られるから我慢してくれ。な?」

川崎「えぇー」

京華「…」


川崎沙希を見送る川崎沙希は
まるで世界の終わりを見届けるような
眼差しで俺たちを見つめていた。