僕は白露型の二番艦、時雨。
 僕はかつて日本の軍艦として戦って、沈んだ――はずだけど――。
「お前が時雨か?」
「……」
 僕は今人間の、それも女の子の体で生きている。

 僕は「艦娘」という存在になったらしい。海を支配している「深海棲艦」から海を取り戻す為に戦う、艦船の魂を持つ少女。
 正直馬鹿馬鹿しい。だって、僕はずっと見て来たから。
 戦って沈んでも、僕は海の底から水面をずっと見上げていた。
 そうしていると分かる、海が汚れていく。
 殺された水獣達の血、海に捨てられたゴミ、生き物の死骸――。
 海を汚していたのは、他でもなく人間だ。その人間が追放されたなら、今の海はどれだけ綺麗だろう。
 その上、その仕事を昔の歴史でしかない僕達にやらせようというんだ。腹立たしくて仕方がない。

「時雨、ちょっと良いか?」
 声の主は、この鎮守府の提督だった。
「なんか馴染めてないみたいだからさ、心配だったんだ」
 心配――、兵器でしかない僕に、心配される理由があるのだろうか。
「この先不安な事もあるかも知れないけどさ、頑張ろう。俺も出来る事をするから」
 僕は、不安なわけじゃない。腹が立つんだ、不満なんだ。
 勝手な都合で引っ張り出されて、戦えなんて――、納得出来るわけがない。
「時雨?」
 出来る事って何?戦うのは僕達なのに。
 指揮を執る事?言う事なんて聞きたくない。
 こうやって僕を腹立たしくさせる事?だとしたら最悪だ。
「大丈夫か?」
 さっきから、僕の名前を呼ばないで。
 その名前はとっくに除籍されて、また道を誤らない為の糧になったんだ。西村艦隊や第七駆逐隊の皆、僕に乗った人達も同じ。

 こんな奴らが皆の跡継ぎだ。
 こんなの酷過ぎる。
 お前らなんかの為に――。
「お、おい……」
 気付いたら、僕は提督を殴っていた。人間しか持っていないこの手で、力を込めて思いっきり。
 その後は、僕自身でも抑えようが無かった。最も、最初の一発の時点で踏ん切りつかないのは分かり切ってるけど。
 僕は、提督を何回も殴った。押し倒して、自分の腹立たしさが収まるまで続けざまに殴り続けた。
 我に返ったら、提督の顔には痣が出来ていた。唇からは血が出ていて、まぶたも腫れていた。

 それから、提督は病棟で診察を受けた。見てくれは酷いけど実際はほとんど何ともない、一週間もあれば大丈夫だ。ケガの理由は言わずに、それだけ皆に言って仕事に戻った。秘書艦の艦娘の目は、明らかに僕の方を向いていたけど。

 そんな日の夜、僕は提督の部屋をこっそり覗いた。
 てっきり寝ていると思ったのに、提督はまだ起きていた。顔に氷を当てながら、書類と見つめあっている。
「時雨?」
 僕に気付いた提督は、机から立ってこっちに寄って来る。
「どうしたんだ?こんな時間に」
 なんでもない顔で、提督は僕を見つめて来る。
 どうして?僕は酷い事をしたのに。きっと痛かったはずなのに。どうして――。
「えーっと……何か用事か?」
「……」
 それでも、僕は黙り続ける事しか出来なかった。
 話したくないからじゃない。腹立たしいとか、そういう物でもない。
 怖い。居なくなった存在である僕の名前を呼び、僕の事を一切責めない。そんな提督が不気味に思えた。
「……」
 僕はただ深く礼をして、部屋を出て行ってしまった。

 そんな事があった次の日、僕の部屋には地面と水滴がぶつかる音が響き続けている。まさかと思って窓を開けたら、雨が降っているんだ。
 よくよく考えたら、人間の体になってから外を見ていなかった。
 窓からは学校の校庭のような場所しか見えないけど、もっと色々な物があるはずだ。
「……」

 雨が降っているから、誰も外には出ていないみたいだった。
 工廠やドック、他にも沢山の建物を見つけたけど、今日はどこも休み。
「本当に……静かだね……」
 海の底に居た時もこんな感じだった。
 聞こえるのは水の流れる音だけ、他は何もない静かな世界。
 色々な事を考えながら歩いていたら、海辺に出た。どっちかというと、港か何かだと思う。
「ここから、出るのかな……」
「ああ、そうだ」
 僕の独り言に返事が返って来る。提督だ。
「皆ここから出て、帰って来る」
 話している提督の顔は、僕に話しかけて来た時の優しい顔じゃなかった。
「傷だらけで、な……」
「……」
「俺だって、出来る事なら戦いたい。先人の力を借りないと戦えないなんて情けない。だけど今の俺じゃ何も――」
「そんな事ないよ」
「え?」
「僕、思ったんだ。海を大切にしていなかったのは人間なのに、取り戻そうなんて従えないって。それも昔の記憶でしかない僕達にやらせて。でも――」
「僕はもっと勝手な事してたんだ。誰とも話さないで、誰かを自分の感情で傷付けて――。果てには不気味がったりもしたよ。自分すら抑えられない僕こそ、本当に無力だ。でも提督は――」
「時雨……」
「え……あ……ごめん。急にこんな事言われても困るよね」
「お前、自分の事僕って言うんだ」
「え?」
「いや、なんか……、てっきり私とかかと。声も予想と違ったし」
 正直拍子抜け。まさか今の状況から、一人称の話をするなんて思ってなかった。
「ふふっ……」
「あ、今笑った!」
「あ……」
「僕、笑ったの初めてかも……」
 ずっと嫌な思いばかりが先に来て、笑った事なんて無かった。でも――。
「提督」
「ん?」
「一昨日はごめん」
「気にしてないよ。俺だって無神経に踏み込みすぎたんだ」
「僕にも力にならせて。その……艦娘としてね」
「え?」
「提督の言う通りにしていれば、何か見える気がするんだ。だから……、僕じゃ、邪魔かな?」
「そんな事は無い!けど……良いのか?」
「佐世保の時雨に二言は無いよ?」
「そうか?じゃあ――これから宜しく、時雨」
「その呼び方はちょっと嫌だな?」
「え?」
「もう時雨は除籍されたもん」
「……そうか……じゃあこうしよう」
「白露型二番艦時雨は既に除籍された物。よって新たに命名する」
「白露型二番艦、時雨。お前の新しい名前だ」
「……逃げたね?提督」
「そんな事は無いぞ?」
「まあ良いや。提督が新しく付けてくれたくれた名前に違いないしね」
「……これから宜しく、提督」


~説明だと書き切れなかった後書き的な物(読まないでくれても大丈夫です)~

これを読んでいる人は、最後まで本編を読んだものと思って書いています。ご了承ください
最初に
こんなのを最後まで読んでくれてありがとうございます。色々と文法がおかしいのは分かってるんですが、どうも夜に書いたからか狂ってしまう(汗)後日自分で読み直します

書いた理由
最初は白露型のSSを書きたかったんです。そして一回書いたのですが……
「これはもう白露型である必要が無い」
という状態になってしまいまして……。色々考えて時雨に落ち着きました。
「時雨で無ければ書けない内容ってなんだろう」
と考えたんですが……、まあシリアス寄りになりますよね!史実含むとより一層!

人物について
最初、ゲームの時雨の性格から初めて色々葛藤するような感じで考えてたんですが、書いてる途中に色々あって路線変更、結構な改変をしました。その結果終盤を除いて終始心の声……。さじ加減が結構難しい。

ストーリー
最初に時雨の性格を改変した以上、ここからどうゲームの性格になるかが本筋だろうな、と思いました。
当然最後の会話だけでゲームの時雨の性格になった感じじゃ無いんですが、第一歩を書いたつもりです。超不評でも無い限り続きも書きたいです(ボソッ)
後、最後は無理矢理畳んだ感があるので直したいですね。「もしかしたら」続きも書くかもなので一回で仲良くする必要は無いとも思ったんですが、うやむやに終わるよりは良いかなー、と思ったのもあるんですよね。それに上でも言った通り「第一歩」を書きたかったので、落としどころとしては合ってるかなーとも思ってます。

最後に
説明部分でも書いてますが、艦娘として呼び起こされた艦船が何を思うのかを考えながら書きました。当然体験者の方や専門的な知識が豊富な方からすれば及ばぬ部分、納得出来ない部分もあるとは思います。ですが皆さん、特に提督の方には考えてほしいのです。かつて自分が戦った海に出なければならない艦娘の気持ち、艦の名前を背負い続けなければならない艦娘の気持ちを……。
所詮はゲームの二次創作と思うかもしれません。後書きも含めて偽善と思うかもしれません。それは皆さん次第です。ですがどうか一度、誰かの気持ちを考える機会を持ってみてはどうでしょう。きっとそれは、艦娘に限った事では無いはずです。
書き切れそうに無いので、ここまででさようなら!多分私は夕方頃にこれを見直して赤面こいてます!夜はいいよね夜はさ!