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その日は朝から雲行きが悪く、太陽の光がまと

もに地上へ降り注ぐことの無い日だった。

その所為か普段よりどんよりとした空気が街に

は立ち込めり、人々も険しそうな顔つきで各々

の役割を果たしていた。


私も当然、綾瀬絵里としての役割を果たす。

とは言っても、ごく一般的な女子高生が行う日

常だけれど。

学校から家に帰った私は、自分の部屋に入るな

り鞄を床に置いてからベットに寝転んだ。






真姫から告白されて、1日。

何の因果からか突然真姫の発する言葉により、

私は彼女と付き合う事になった。

何でかしらね。


元々真姫の事は嫌いではなく、寧ろその溢れ出

る知性と見る者を魅了するような美貌により(ま

きちゃんかわいい?)、彼女は私の中では一目置

かれるような存在にまでなっている。


しかし。



彼女はにこと付き合っていた。



それが私の中で引っかかる唯一の要因であり受

け入れがたい事実だった。

彼女達は特にその事について公言はしておら

ず、その為私の思い違いであったかもしれない

という事も今日の授業中考えた。

しかし私の脳裏に思い浮かぶのはいつでもキス

をしているにこと真姫の姿であり、そのビジョ

ンは頭から消し去るには十分過ぎるほどの現実

性を帯びている。


少なくとも私があの時目にした光景は事実であ

り、受け入れがたい現実だった。




日が暮れ、まもなく夜が訪れようとしている。


ーーーーーー


真姫から電話があったのは、私が遅めの夕食を

食べ終え、部屋で風呂の準備をしている時だっ

た。


リリリ、と携帯の電子音がベットの上から(何故

携帯をベットに置いていたのかしら?)鳴り出

し、電話をかける相手を間違えたかのように3

秒程で止まった。


携帯を手に取ると、液晶に映し出される「不在

着信:西木野真姫」の文字を確認できた。

しかし、それだけでは本当に私に用があったの

かも分からなかったので掛け直すのは控え、再

び電話がかかってくるのを待つ事にした。

真姫だって、間違い電話くらいはする。

しかし、その予想を裏切り再び携帯が鳴り出し

た。

「着信:西木野真姫」


出ようかどうか迷ったが、携帯を耳に当てくた

びれた表情をしている真姫を想像すると胸の奥

がいたたまれない気持ちに襲われる。


私は、その電話に出る事にした。


『もしもし』

私が先に声を発する。


『…もしもし』


電話口から聞こえるのは紛れもない真姫の声だ

った。



『どうしたの?こんな時間に。何かあった

の?』


『何か無いと電話しちゃダメ?』


『そんな事無いけど』


『私達恋人なんだから良いじゃない』


『それもそうね』

私はよほど「にことは別れたの?」と聞きたく

なった。

しかし当然そんな事は言わない。


『絵里は今日どうだったの?学校』


『まあまあね。練習もなかったし、暇な1日

だったわ』


『そう』


『真姫は?』


『私も同じ様な感じよ。1日中暇してたわ』


『なるほどね』


一般的なカップルは電話で学校の事など余り聞

かない気がするが、それが正しいかどうかは私

には分からなかった。

私達はどちらかというと特殊な部類に入る方な

のかもしれない。

それは性別や学年、部活のどれを取っても言え

る事だ。

いや、もしかしたら逆に一般的な女子高生は同

じ部活の女先輩(若しくは後輩)に恋をするもの

かもしれない。


恋愛経験が殆ど無い私にとって、真姫との関係

は酷く奇妙に思えた。


『明日絵里と帰りたいんだけど』


『別に構わない?』


『ええ、勿論いいわよ』


『私も丁度そう思ってたとこだったのよ』


そう言い終えて私は、真姫は決して気まぐれに

電話をかけたわけではなく明日の約束をする為

に電話して来たのだと遠回しに悟った。


全く、素直じゃ無いんだから。


『明日は何処か行きたい所ある?真姫の行きた

い所ならどこでも良いわよ』


『別に…行きたく無い事も無い所はあるけど』


どっちだ。


『この前はいつも行ってるような所だったし…

真姫もたまには珍しい所行きたいんじゃ無

い?』


『そうね…私は』


『映画館とか行きたいわ』


映画館。

カップルならではの場所だ。


『私はOKよ』


『この近くだと○○シアターなんかが良いって

亜里沙が言ってたわね』


『じゃあそこで良いわ』


映画を見るにしては、放課後は少し遅過ぎる気

がしなくもなかったが条件を呑むことにした。

夜の映画館というのはそれだけで少し、不思議

な響きを持つような気がする。


『決定ね』


『分かったわ。何処で待ち合わせすればいい?

凛とか花陽には見られたくないのよ』


彼女は飽く迄、人目を憚るらしい。


そう思うと不意に、彼女がにこと二人でいる様

子を私の脳内にフラッシュバックさせた。




【彼女達はキスをしている】



その時真姫は何を思ってにこの側に居たのか?

帰ってから風呂でにこの事を思い悶えたりした

のだろうか?

そして、その後彼女達に何があったのだろう?


考えれば考えるほど分からない。

そして、私は酷い疎外感に似たものを覚えた。



嫉妬とも、羨ましさとも言えないような感情が

渦巻く。

まるで得体の知れない何かが胸の内で蠢くみた

いに。



『絵里?どうしたの?』


真姫の声が電話口から聞こえてくる。

私は、それに返答した。

『…なんでも無いわ。真姫は凛や花陽に見られ

たくないのね?』


『ええそうよ。少しでも噂が立つと嫌じゃな

い?』


『それはそうとも言えるわね。なら、1年生に限

らずμ'sの皆にも気をつけないと』






『例えばにことか』







『そうね』



彼女は特に慌てたような様子は見せなかった。

それとも、私が知っているのに気づいていない

のかもしれない。

物事は表裏一体だ。


事実はいつか露見する。

この事を知っているのは、地球上でただ私一人

な気がした。

ただどれが真実でどれが嘘なのか最早私には分

からなかったが。


『眠くなってきたし、もう切るわね』

真姫が言った。

『ええ、また明日』


電話はぷつりと何の兆候もなく終わった。

その事は私に、穂乃果がいとも簡単そうにゲリ

ラ豪雨を収める様子を想像させた。


しかし、太陽が顔を出す事は無かった。


静かな夜に太陽は不要だ。



再び長く静かな夜が到来した。

それは深く寂しい闇を伴っており、いかなる光

をも吸収してしまう。




しかしどんな夜の後にも朝がある。どんな週の

中にも必ず日曜日があるのと同じように。





やがて、朝がやってきた。







以上です。
まだ続きます。後編は後ほど投稿しますのでお待ち下さい。

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