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翌日は生憎の雨で、人々は生来持つ義務感に従

うかのようにこぞって傘を片手に持ちながら街

を練り歩いた。

朝早くから降り始めた雨は留まる事を知らずに

夕方まで降り続けた。私は教室の窓際からその

光景を終始飽きずに眺める。そこに何らかの意

味が存在するかのように。しかし当然一日中雨

を眺める事に物理的な意味はない。

私は雨を眺めながら、夕方にする真姫とのデー

トについて考えた。彼女はどんな服を着てくる

だろう…いや、学校帰りだから制服に決まって

る。傘は私が持ってるから、もし真姫が忘れて

来たとしてもしっかりエスコートすることが可

能だ。お腹が空いたら、何を食べよう。いや、

きっと空くにきまってる。放課後に映画を観る

となると、かなりの時間を要するはずだ。ポッ

プコーンでも買っておくべきだろう。味は何に

するべきだろう?王道のキャラメルか、それと

も今流行りのチョコフレーバーにするべきか。

いや、それは少なくとも私の中の見解だ。真姫

にとってはスターバックスにあるような訳のわ

からない味にトッピングを一通り添えたような

ウルトラフレーバーこそ王道なのかも知れな

い。一般的な医者の娘はどのようなポップコー

ンを食すのだろう。


そうこう色々考えてる内に、授業が全て終わっ

た。


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放課後、私と真姫が朝の内にメールで決めた通

りの待ち合わせ場所となる映画館に向かった。

学校では人目に着くので、直接現地に行こうと

考えた訳ね。

幸いにも雨は止んでいて、傘は不要だった。

しかし地面には所々水溜りが散在しており、注

意深く歩くにしても気をつけ過ぎると言うこと

は無かった。


私は、向かう途中歩きながら携帯を弄って(元生

徒会長?)真姫と連絡を取り合う。彼女は私より

少し早く学校を出発しており、もうすぐで到着

するとのことだった。年上の私が遅れるのも少

し申し訳ないが、今更急いでも仕方なかったの

でそのまま歩く事にした。真姫もその事につい

て厳しく責め立てるようなことはしないだろ

う。やがて、映画館に到着した。


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その映画館は新宿にある某アレのように巨大な

映画館ではなく、寧ろ地元民が集うような地域

特有の雰囲気を持つ落ち着いた施設であり従っ

てその場にいる客もかなり少数に思われた。


私は館内に入ると直ぐに真姫の姿を確認し、声

をかけた。

「ごめんなさい、待った?」

「私もさっき来たとこ。そんなに待ってないわ

よ」

「よかった、じゃあ行きましょう」

「絵里はお腹空いてない?何か買ってから入っ

た方がいいと思うけど」

どうやら彼女も同じことを考えていたらしい。

少し嬉しいわ。

「私もそう思うわ。ポップコーンとか買うべき

ね」

「じゃあ、適当に二人分ジュースと合わせて買

って行きましょう」

「そうね」

私達は館内にある食事注文のレジに行き、ポッ

プコーン二つとジュースを二つ頼んだ。私は

散々杞憂したがその予想に囚われず真姫は普通

に塩味のポップコーンを頼んだ。私も同じもの

をオーダーする。飲み物は二人で同じフルーツ

ジュースを買った。やがてシアターに入ると、

数分の宣伝を挟んでから映画本編の上映が始ま

った。


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内容はベタベタの恋愛映画で、一人の男主人公

を数人の女が取り合うといったものだった。映

画に出てくるキャストは皆何処かで一回は見た

ことのあるような感じがしたが、誰だったかま

では思い出せない。主人公は結局誰とも付き合

わずにラストを迎えるといった何の面白みもな

い映画だったが、特に後悔は残らなかった。

元々内容にそこまで期待はしていない。真姫も

同じはずだ。私達は飽く迄映画館に来て上映を

鑑賞するという行為自体に意味を見出してお

り、映画の内容自体にウェイトを置いている訳

ではない。つまらなくてもそれなりに会話のネ

タにはなる。



しかし、事件は映画が終わった後に起こった。







映画が終幕して人々が疎らに帰りだした頃。

私と真姫は暫く何も言わずに席に座り続けてい

た。別に映画の内容に不満を持っていた訳では

なく、映画が終わった後の数分間の静寂とその

余韻に私達は浸っていた。

「帰りましょうか」

「そうね」


私がおもむろに言い出すと、真姫もそれに呼応

するように言葉を添える。そう言うと私は席を

立ち、少し伸びをして体を起こす。


その時。

今にも映画館から出て行こうとしていた人の一

人に、酷く既視感を覚えた。

後ろ姿でも分かる、ポニーテールとその黒髪。

平均的に見て低めの身長と、それを庇うかのよ

うな静かな足取り。それになにより、オトノキ

の制服が目立つ。


どう見てもにこだった。


偶然にしては出来すぎる。そう言えば最近姿を

見ていなかった。それは彼女が意識してそうし

ていたのかもしれない。学校での口数も、真姫

と付き合い始めてから殆ど無くなっていた。

彼女は私達が付き合い始めたのに、直ぐに気づ

いたのだろう。そして、それを監視しにきた。

いや、もしかしたらこれまでにも私達が気づい

ていないだけでしっかりと見ていたのかもしれ

ない。


「待ちなさい!」


私はにこの後を追いかける。

しかし、既に人波に埋もれていた彼女の姿は直

ぐに消えてしまい、その追跡をする事は不可能

になった。

その事を察した私は諦めて館内に戻る。

彼女は、別れた真姫が私と付き合っていること

に嫉妬を覚えているのかも知れない。若しくは

真姫に自らの存在を主張し続けるかのように後

を追っているだけという事も考えられる。いず

れにせよ、元恋人がすべき行為ではない。


「どうしたの?」

「誰か知っている人でもいた?」

「いや…私の見間違いだったみたい」

「何でもないわ」

私は全てに辟易していた。

様々な事象が絡まりあい、私を困惑させる。

最早デートなどどうでもよく、にこの目的とそ

の心象をすぐにでも捕まえて引っ張り出したか

った。

しかし、そんな事をして真姫を放っておく訳に

もいかない。私もそこまで利己的な人間では

無い。

「行きましょう」



私達は映画館を出ると特に話すことも無くそれ

ぞれの家へと辿り着いた。真姫ともその後は簡

易的なメールをするだけで映画の内容について

深く語り合うというような事はなかった。

それをするには余りにも私は精神的に疲れてい

たのだ。


やがて、静かな夜が訪れる。


その筈だった。

しかし神は時として理不尽な運命を人に押し付

ける。例えば私とかに。



寝る間際に電話が鳴った。


私は相手が真姫と思いすぐに電話をとった。


しかし違った。




『着信:矢澤にこ』


静かな夜は訪れるにはまだ早い。






以上です。
次回で完結予定です。
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