前編→https://novel.ruruie.com/article/69/
中編→https://novel.ruruie.com/article/71/
後編→https://novel.ruruie.com/article/79/

後編までを未読の方は先に読む事を推奨します。


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今にも寝ようと布団に入りかかっていた私を遠

くから阻害するかのように、携帯が鳴り出し

た。

相手は真姫などではなかった。

『着信:矢澤にこ』


にことは暫く連絡を取っていない。確か真姫と

付き合いだしてからだ。

にこと真姫は元々付き合っていて(その事を二人

は隠していた)、いつかの帰り道に私はその事を

知った。しかし何らかの事情により二人は別

れることになり、真姫は私に一昨日告白してき

た。

ここまでが事実である。


しかしにこは今日の私達のデートを監視してお

り、映画館にまで侵入してきている。

そこには彼女なりの思惑が有るのだろうが、今

真姫と付き合っている私からすればそのような

ストーカーまがいの行為は非常に腹立たしく、

気持ちの良いものでは無い。


にこは間違いなく何かを知っている。

そう私には確信できた。

私と真姫が付き合う前に何があったのか、にこ

に問い詰める必要がある。

それが少なからず私に不利益を及ぼすものだと

しても、今のままでいることの方が辛かった。

この電話に出る事が状況を打開する策の一つに

なるだろう事は、私にも容易に理解できる。


電話が数回鳴ってから私はそれを手に取り、会

話を始めることにした。


『…もしもし』

間違いなくにこの声だ。

『もしもし』

私も同じ言葉を反復する。

『夜遅くに悪いわね。ちょっと話したい事があ

って』


『奇遇ね、私も話したい事があるのよ』


私に話したい事?


『じゃあ、あんたからでいいわよ。色々面倒く

さくなる気がするし』


『そうさせてもらうわね』

「面倒くさい事」が何であるかは深く追求しな

い事にした。

私には今思っているすべてをにこにぶちまける

必要があるのだ。

『まずね、にこ。あなた、今日映画館にいたで

しょ』


『誤魔化したって無駄よ。私はしっかりとあな

たの姿を見たんだから』


何故か、電話の向こうからため息が聞こえた。


『ええ、いたわよ。それはまぎれもない事実だ

わ』


『どういうつもりなの?』

暫く間があった。

恐らく答えに窮しているのだろう。

返答次第によっては厳しく問い詰める必要があ

る。

『単刀直入に言うわね。私は映画を見てたわけ

じゃなくて、あんたたちの様子を見に来てたの

よ』


やはり。

私はさらに質問してみることにした。

『何で私と真姫が付き合っていることに気づけ

たのかしら?そこが疑問だわ』

にこは何も言わない。

『それだけじゃない。あまり言いたくなかった

けど、私はにこと真姫が前に付き合っていたこ

とも知っているのよ。それなのに真姫はこの間

私に告白してきた。これはあなた達が別れたっ

て事よね?それがどうしてあなたが私達の跡を

追う事になるのかしら。』


『その辺をしっかり説明して欲しいわね』


見事に、これまで溜まっていた鬱憤を全て吐き

出す事ができた。我ながらよくここまで饒舌に

話せたと感心する。


しかし、にこからの返答は意外なものだった。


『あんた、ちょっと勘違いしてない?』

『私は別に真姫に気があって追い回してたとか

そういうわけじゃないわよ。まあそう思われて

も仕方ないかもしれないけど』


『何を言っているの?嘘を付いても無駄よ』


『嘘なんかじゃないわ。絵里、今から言う事を

しっかり聞きなさいよ』




『私は真姫と付き合ってたことなんか無いわ。

今まで一度も。絵里は、そこを勘違いしてる』



『…嘘をつかないでって言ってるの!』


思わず声を荒げてしまう。

家族の誰かに聞かれてしまっただろうか。

しかし、にこが嘘を言っているようには聞こえ

なかった。


私の知っている彼女は真っ直ぐだ。とても嘘が

つけるような人ではない。


私は彼女の言うように何処かで勘違いしている

のではないか?


すると不意に、電話から聞き覚えのある声が聞

こえた。

『絵里。にこちゃんは、嘘をついてなんかいな

いわよ』

それは真姫の声だった。

『…なんでよ』


『どうして真姫がにこと一緒にいるの?』


『絵里、落ち着いて』

真姫がその端麗な声で私を宥める。

『私はにこちゃんの家に泊まりに来てるのよ。

友達として』

友達として。

『実を言うとね、私はまえからにこちゃんに恋

愛相談してたのよ。絵里に告白したいけどどう

しようって』


『それで色々アドバイス貰って、今こうして絵

里と付き合ってる。感謝するわ。本当に、にこ

ちゃんには助けてもらったのよ』

『それで今日は、にこちゃんが私達の様子を見

に来てたって訳』

なるほど。真姫が言うのなら、それは信用がい

くものだ。

『で、でも私は真姫とにこがキスしてるのを見

たのよ。確実に』


『どういうことなの?』


『絵里、本当にしっかり見た?隅々まで?』

うん、とは頷けない。私は、二人が顔を近づけ

あっているシーンは見たものの、飽くまでそれ

は後ろ姿でありしっかりと唇同士が重なり合っ

ている姿まで鮮明に見た覚えは無いのだ。

『…あれはね、練習してほしいって、私がにこ

ちゃんに言ったのよ。勿論、練習っていっても

実演するわけじゃなくて、シュミレーションみ

たいなやつ。確かに距離が近くなったけど、キ

スしてた訳じゃないの。本当よ』


『…要するに、私の見間違いだったって事ね』


『まあ、そういうこと。何も言わなかったから

色々惑わせちゃったかもしれないわ』


『ごめんなさい』

全部私の勘違いだったのか。

霧で何も見えない不確かな状況から一変、太陽

によって照らされた私の心は鏡の如く全ての物

を純粋かつ克明に映し出していた。

にこ。私。真姫。

三人の関係は、激しいくらい複雑に絡み合って

いた。それが今ようやく解消されたのだ。

そこに今では些かの綻びもない。


『そういうことよ、絵里。納得いった?』

にこの声だ。

『まあ、何の説明もなかったのは悪かったわ

よ。だからこうして電話したんだけど』

『全て合点がいったわ。私こそごめんなさい』

『いいわよ』


少々の間が空く。

『まあ、真姫もあんたの事を思って色々行動し

てたって事よ。嬉しいでしょ?』

『ま、まあね』

ちょっとにこちゃん、と照れた声が聞こえた。

『今回の事は勿論BiBiの範囲で留めておくわ。

私ももうあんたたちには関与しない。あとは、

絵里。あなた次第よ』


『わかったわ。私を誰と思っているのよ』


『賢いかわいいエリーチカ、でしょ?』

『その通り』

ハラショー、と叫びたくなった。

しかし夜にそんな事をすると、酷い苦情が来そ

うだ。


『そういうことよ。夜遅くに長々と悪かった

わ』


『べつに構わないわよ』


『それじゃ、また明日ね』


『あんた、くれぐれも真姫と別れたりするんじ

ゃないわよ?』


『分かってるわよ』


そうして、電話が切れた。


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真姫との1件が電話で解決して、私は安堵してい

た。

私の勘違いで全てが始まったのだ。

思えば確かに、考えを急ぎすぎていた気もして

いた。

それが今、三人の協力(?)を経て、解決に導か

れた。

流石BiBi、とでも言うべきかしら。

あらゆる事が自分自信の杞憂だとわかった私

は、そのまま布団に入った。



明日は真姫と何処へ行こう。

にこにはお礼でも言うべきだろうか?

色々考えている内に、意識が朦朧としてくる。

そして、静かな夜にそれは沈んでいった。


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妙な違和感を覚えて目がさめる。

ベットから身体が落ちかけていたみたいだっ

た。

体制を直して布団に入り、再び目を閉じる。

しかし、何故が寝る事が出来ない。

何かが私の睡眠を損なっているように感じた。


それは何だろう?



ふと、ある考えに行き着いた。








もし二人が共謀して私を騙していたとしたら?

私に隠れてあの二人がまだ付き合っていたら?

あれらは全部嘘だったのではないか?


そうすると、当然私が真姫と付き合っている事

も嘘で塗り固められた現実となる。


いや寧ろ、殆どの物がそうなってしまうだろ

う。


その可能性も否定は出来ないのだろうか?

しかし、静かな夜にそれらを否定する術はどこ

にも無かった。